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「ま、魔女め!出ていけ!」
こちらの襲来にキッチンに立っていた旦那は悲鳴を上げながら掴み掛かる。
その声にハッと我に返った。
「退いてっ!」
追い出そうとする旦那を押しのけ、生気のない奥さんの腕からぐったりする娘を奪い取る。
その口元に付いていた青い花弁と甘い香りで、マリアは一歩遅かったと顔を歪めた。
「蜂蜜は赤ん坊には猛毒なのよ⁉第一、この薬草も…!」
呆然とする奥さんの足元に転がっていた青い花を掴み取り、何てことをしたのだと怒鳴りつける。
それは魔法薬に使っていた特殊な薬草で、飲めば魔女でなくても魔法が使えるようになる花だった。
本来は魔女が魔力の底上げに使ったり、調合した薬の効能を上げるために使われるが、その花の効能には大きな副作用があり、乳幼児が口にしては猛毒となる毒草でもあった。
(既に中毒症状が出てる…!急がないと…!)
状態を確認し、手立てを必死に考える。
家の状況からして具合の優れない奥さんの慰めに甘く爽やかな香りのする花を渡し、子供に見せて遊ばせている内に誤って食べてしまったのだろう。
兎に角、飲んでしまった毒を吐き出させなければと前世の記憶を引っ張り出し、娘の腹に力を込めた。
途端にパチャと口元から乳と一緒に、青い欠片が吐き出される。
上手く行った!
ホッとしたのも束の間、マリアは外套の中に泣き出した子を包み込み、キッと夫婦を睨みつけた。
「あんたたちみたいな教養もない恥知らずな親に世話されてたら、命がいくらあっても足りやしない!この子は私が貰う…!次に私の前に現れたら死を覚悟しなさい!」
そう吐き捨て、壊れた戸から豪雨の中を家へと駆け出す。
背後で旦那は何かを喚いていたが、奥さんは終始、虚ろを見つめていた。
様子からするに産後鬱なのだろう。
哀れには思ったが、手癖の悪い旦那を窘めもしない者に同情などしなかった。
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