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「君はいつも他人とはやんわりと一線を引いていた」と言ったけど、それは俺も同じでした。
転校が多かった俺は、クラスメートとはなるべく深く関わらないようにしてきました。
別れるときにつらくなるのはわかっていたから。
でも、君に対しては全然違った。
君を知りたいと思ったし、俺を知ってほしいと思いました。
それは、俺の知らない感情でした。
どうしてそんな感情が沸き起こるのか、自分でも本当に不思議でした。
だから、俺は君を試すようなことをたくさんしたし、それは俺自身を試すことでもありました。
君が喜んだり戸惑ったりする様子を見て、俺も喜んだり戸惑ったりした。
自分で自分の性格が嫌になりました。
ただ、サッカーをしているときだけが自分に正直になれる時間でした。
君にパスを求める。
他の誰でもなく、俺だけにパスを送るよう、全身で君に求める。
あの瞬間だけは自分の気持ちを隠すことなくぶつけていた正直な俺でした。
俺たちは阿吽の呼吸で繋がっていましたよね。
俺には君がボールを蹴る軌道が手に取るようにわかったし、君にはきっと俺が走り込む瞬間が見えていたと思う。
一生このままで、時が止まってくれたらと何度思ったことか。
ごめん。君が今どんな顔をしているか、なんとなく想像できます。
回りくどいことを書いている自覚もあります。
俺は臆病で、今もまだ自分の気持ちを伝えることが怖いのかもしれない。
バレンタインの日、藤本の別荘に泊まったことは覚えていますか。
あの数日前、俺はあのサッカーボールがセットになったバレンタインチョコを買いました。
限定10個のうち残っていたのは2個。
ちょうど店前を通りかかったとき、見覚えのある君のファンクラブの女の子がチョコを買うかどうか迷っていました。
君が言ってたとおり、高校生にはちょっと高い買い物だったから。
あの子は絶対に君にあげるんだろうなと思った瞬間、なんだかもの凄く腹が立ってきて。
横からさっさと残り2個を買ってしまった。
ちょうどお小遣いをもらった直後だったから。
自分でもあのときの衝動は不思議でした。
単なるヤキモチだと思っていた。
君ばかりがモテることに嫉妬しているんだろうと。
翌日、藤本から誰にあげるのか問い詰められて、俺は君の名前を出しました。
当然、冗談で済ませてくれると思っていたのに、彼から返ってきた言葉は「やっと言うんだ」でした。
俺はもの凄く動揺して、同時にあの衝動に納得もしました。
俺は、あの女の子に嫉妬していたんだと。
何の躊躇いもなく、君にバレンタインチョコを渡せる彼女に嫉妬したんです。
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