歓喜の秋

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歓喜の秋

「これからベンチ入りメンバーを発表する」  夏休みが終わると、僕たちの生活はサッカー一色に染まった。誰もがT校との試合でスタメンやベンチ入りすることを目指して練習に励んだ。  僕も君も、せめてベンチには入りたいと必死だったよね。その結果が、今出ようとしている。  3年生と2年生が発表されて、チームの中には選ばれなかった人たちの沈鬱オーラが漂ったところに、ひと呼吸置いて監督から最後のひと言が発せられた。 「――それから……1年から永瀬と椎名。以上だ。他のみんなも練習に手抜きするなよ! 今日はこれで解散!」 「ありがとうございましたッ!」  あの時の嬉しさと言ったらなかったね。    自分たちの実力には自信を持っていたけど、1年生がベンチ入りする可能性は本当に低くて、僕も君も半ば諦めかけていた。  名前を呼ばれたときはお互いの脇腹をギューギューつねりながら夢じゃないことを確かめ合ったっけ。 「痛いよ椎名!」 「オレも痛いよ永瀬ー!」  その日は練習後のグラウンド整備もボール磨きも、楽しくてしょうがなかった。    あんまり浮かれているのもどうかと思って必死に真面目な顔を作ろうとしたけど、気を抜くと自然に顔が緩んできちゃって。その度にお互いに脇腹をつねり合ったから翌日は青アザだらけになっていたっけ。    1年生とはいえ僕たちの実力は部内にも広がっていたし、ベンチ入りメンバーに選ばれたのも当然だと思っている人が大半だった。    特に1年生は、自分たちの学年から選ばれたことを純粋に喜んでくれた。ただ、僕たちのせいで弾き出されてしまった先輩たちからは冷たい視線が突き刺さってきたけど。  でもそれは、結果で納得させるしかない。そのためにもどうしても試合に出たかった。 「あとは試合に出て結果を出すことだな。たとえ5分でも10分でもいいからピッチに立ちたいよ」 「ああ。二人一緒に出られたらいいな」  やっと掴んだ大きなチャンスを前に、僕たちは期待と希望とそしてほんの少しの不安を胸に抱えて試合の日を待ちわびていた。
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