歓喜の秋

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 試合当日。天気は快晴。    事実上の決戦と言われている試合だけあって、会場となった県内のグラウンドには大勢の観客が詰めかけていた。地方紙の新聞社も何社か来ていて、カメラを構えた人たちが目に入る。  共学のT校は派手なチアリーダーを引き連れてやって来ていたけど、男子校の僕たちはむさ苦しい応援団だったよね。  試合は惨憺たる内容だった。  前半が始まってすぐに1点を入れられた。  いつもガチガチに守備を固めてくるはずのT校がこの日は珍しく攻撃的で、うちは自分たちの形を作れずにいた。そして、まさかの失点。    おまけにこの時、守護神として絶大の信頼を得ていた3年生のキーパーが手を負傷。開始早々キーパーの交代という思ってもみなかった事態になってしまった。 「飯田先輩カチカチじゃん。大丈夫かな」 「まさか自分が出ることになるなんて思ってなかったでしょ。おまけにこの状況じゃあ」  予想外の試合展開に動揺している先輩たちを見ながら、僕と君は人間ウォッチングを楽しんでいたよね。今考えるとちょっと不謹慎だったかな。  僕たちはベンチの一番隅に座って試合の成り行きを見守りながら、いくつかのシミュレーションを組み立てて、みんなに聞かれないように小声で話し合っていたっけ。  そして前半15分。心配していたとおり、キーパーとのコミュニケーションの悪さをつかれてPKを取られ追加点。もう最悪の状態だ。  前半終了間際にフリーキックを直接決めて、やっとのことで1点を取り返したけれど、それがいっぱいいっぱいだった。  トップ下とボランチを押さえられて、完璧に動きを封じられていたんだよね。ハーフタイムでツートップの一方を交代したけど、そんなことでは事態は好転しなかった。 何かもっと違う、新鮮な作戦を…… 「永瀬! 椎名! アップしろ」 「はい!」  一進一退の攻防を続けた後半20分。待ちに待った監督からの声。僕たちは弾かれたようにベンチから立ち上がった。 「ねぇ、どっちが先だと思う?」 「たぶん椎名だろ。坂本先輩の脚、かなりヤバイ状態だと思うよ」  僕たちはアップしながら囁きあった。けれど予想は大きく外れ、二人同時に交代を言い渡された。 「お前ら1点ずつ入れてこい!」  僕たちは驚いて顔を見合わせた。まさかこんなに期待されているなんて思っていなかったからだ。それとも、監督もヤケになってたとか? 「はいッ!!」  僕はワクワクした。だって練習以外で君と同じピッチに立てるんだよ。やっと夢が叶うかもしれない。僕のアシストで、君がゴールする夢。  チャンスは割と呆気なくやってきた。まったく未知数の僕たちが加わったことでT校のマークがズレたんだ。  君が上手く相手ディフェンダーを引き付けてスペースを作ってくれたお陰で、僕は中盤から一気に前線に躍り出た。  目の前に放り込まれたボールをゴールに向かって思いっきり蹴り上げる。右足が胸につくほどに上体を曲げた。  得意のシュートスタイルから放たれたボールは、鋭い直線を描いてゴールネットの左隅に突き刺さった。  同点!  先輩たちが駆け寄って、僕をもみくちゃにする。近寄った君が僕のこめかみをゲンコツでグリグリと押し付けた。 「永瀬ズルイ! 次はオレに入れさせろ!」 「もちろん! 任せといて!」    僕は約束の印に、君に小さくウインクを送ってみせた。
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