冬のカタルシス

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冬のカタルシス

 翌年の2月13日は学校の創立記念日だった。  この日は土曜日だったので、翌日の日曜日と合わせて僕たちはクラスメートの藤本君の別荘に泊まりに行くことになった。  メンバーは6人。部活はバラバラだけどクラスの中でも気の合う仲間だ。さすがに高校生だけでは心配だからと、大学院生である藤本君のお兄さんとその友人も一緒にってことになって、総勢8人でのお泊まり会だった。  僕はこのとき、ちょっとした心配事を抱えていたんだ。  それはね、数日前の放課後、藤本君が僕に耳打ちしてきたことが原因だった。君がバレンタインデー用のチョコレートを買っていたって言うんだ。  バレンタインデーは女子から男子への告白のはずだ。僕がそう言うと、逆告白だと事も無げに言われてしまった。    考えてみたら、君とはそれまでそういう話をしたことがなかったよね。高校生なら好きな女の子くらい居て当然だ。でも、そんな話を君は一度も僕にしたことがなかった。僕以外の人には話しているのだろうか……  君にはバレンタインデーに逆告白するほど好きな女の子がいる?  相手は誰なんだろう? と何気なく藤本君に尋ねたら『女じゃなかったりして。ジュンは先輩受けもいいからなぁ』という爆弾発言が返ってきた。  確かに男子校だからそういう噂が皆無だったわけじゃない。実際につき合っているという人たちの話も聞いたことはある。君が先輩たちに可愛がられているのも事実だった。  僕は心臓を鷲掴みされる思いだった。女の子なら、諦める。でも、男だったら僕は君を誰かに渡したくはない。  そして、藤本君は【ジュンに白状させる会】と称して別荘行きを提案してきた。もちろんその事を知っているのは僕と藤本君だけ。  藤本くんの提案を、僕は渋々承諾した。だって、君が逆告白する人が気になってしょうがなかったんだ。だけど、君に面と向かって問いただす勇気が僕にはなかった。  仲間の力を借りて、面白おかしく聞き出すことに同意したんだ。臆病でズルイ人間だよ、僕は。
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