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春には桜の花が辺り一面を覆い尽くすであろうと思われるほど、藤本君の別荘の庭にはたくさんの桜の樹が植わっていたよね。
まるで南欧の写真集で見かけるような、真っ白い平屋建ての洋館は不思議とその桜の樹とマッチしていてとても美しかった。
柔道の有段者でいかつい顔をした藤本君を眺めながら、そのあまりのギャップに驚いたっけ。
確かお父さんが建築家だったんだよね。藤本君はあれでなかなかのお坊っちゃまだったんだ。僕たちは見かけによらない彼を大いにからかった。
荷物を置いてホッと一息つくと、もうお昼近くになっていた。
お腹が空いていた僕たちは、藤本君の家族がいつも行くというお店でお昼ご飯を食べることになった。お兄さんたちは車で。僕たち高校生組は、お天気も良かったので自転車をレンタルしてサイクリングを兼ねて。
タンデム用の自転車を借り、ジャンケンで3組に分かれてお店まで競争することになったとき、僕は君と一緒になれなかったことがとても悔しかった。
大雑把で面倒なことが嫌いな君は、大概いつもパーを出すってわかっていたはずなのに。ついチョキを出してしまう僕とは離ればなれ。帰りのジャンケンでは絶対にパーを出さなきゃって心に決めた。
僕は藤本君とのコンビで、しかも前方で運転をリードしてくれたのが彼だったからラッキーと言えばラッキーだったかな。
君はと言えば、バスケット部の長身、桐山君を後ろに乗せて『絶対に勝つ!』と張り切っていたね。
ヨーイ、スタートッ!!
お昼の陽射しでポカポカと暖かかったとは言え、頬に突き刺さる2月の風は痛いほど冷たかった。
お店へ向かう道はサイクリングコースになっていて綺麗に舗装されてはいたけど、長い坂道を登り切らないといけなくてかなりの体力が必要だった。
僕たちは怪力の藤本君のお陰で一気に坂道を登り切ることができた。僕もサッカーで鍛えた脚力には自信があったしね。
自転車を降りてベンチに腰掛けて待っていると、しばらくして野球部コンビの仁科君と有岡君のチームがゼーハー言いながら登ってくるのが見えた。君はなかなか現れなかった。
いつまで経っても姿が見えない君と桐山君にしびれを切らして、無情にも先にお店に入ることになった。
僕は待っていようって言ったんだよ。だけど坂道を全速力で走って汗をかいたから、じっとしているとだんだん寒くなっちゃって。
お店は坂道を登ったすぐのところにあったから、君たちが来ればすぐにわかるしね。
それでも僕は、走ってくる君の姿がよく見えるように窓際の席に座り、視界の中に君が入ってくるのを待った。
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