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欲望の白昼夢
夕闇が迫るグラウンド――
どの部も練習を終えて、僕たちの周りにはもう誰もいない。激しかった練習の余韻を残す君の火照った体を、僕は強く抱き寄せた。
『ジュン……好きだよ』
『トモヤ……?』
君の体は硬直していたけれど、僕に抱かれることに抵抗を示さなかった。僕は少しだけ大胆になり、柔らかな君の髪を撫でながら耳たぶを甘噛みした。
君の喉から、短く小さな悲鳴が聞こえる。
『ジュンは僕のこと、好き?』
抱きしめた腕の力を緩めないまま、僕は君の表情を想像するように闇の中に目を凝らした。
『……』
君は何も言わずに熱い腕で僕の背中を抱き寄せながら、その滑らかな頬を僕の頬に擦り寄せた。
『うん。好きだよ……ずっと前から、好き』
漆黒の瞳を潤ませて、温かい君の唇が僕の額に触れる。初めての感触に、僕は身震いをした。
緩やかに、君の唇が滑り降りてくる。ふっくらと柔らかい、君の唇。触れられたその部分から、今まで知らなかった激しい感覚が沸き上がる。
そのまま離れて行こうとする君の唇を、僕は夢中で追いかけた。クスッと、君が笑ったような気がした。誘われているんだと気付くけど、もう止まらない――
君とのキスは、極上のメイプルシロップのような甘い陶酔を僕に与えた。手も足も、この体の全てが君へ向かって溶けだしてしまいそうだった。
『ジュン……』
益々上がっていく君の体温に、僕の我慢は限界を迎えた。
◆◇◆
「起きろーーッ永瀬! 昼休み終わるぞ」
ざわざわとした教室の雑音から、君の元気のいい声が僕の鼓膜に響く。
ああ、わかっている。ここは夕闇のグラウンドではなく、もうすぐ昼休みが終わろうとしている教室だ。
もちろん君と二人きりではない。藤本君も仁科君も有岡君も桐山君も、みんないる。
これは夢だ。見てはいけない夢なんだ……。
僕はそっと目を開けて有岡君と話していた君の横顔を見上げた。『やっと起きたな』と言いながら君は僕に屈託のない笑顔を見せた。
僕のこの思いから君を守ると誓ったのに。僕はこのまま、君のそばにいてもいいのだろうか……
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