エピローグ

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エピローグ

「あれから7年が経ったんだね……」  モノクロームの写真に向かって、僕は語りかける。    この7年が長かったのか短かったのか、僕にはわからない。あの時から僕の心も体も、氷のような冷たさで全ての感覚を遮断してしまっていたから。  喜ぶことも、怒ることも、哀しむことも、楽しむことも、僕の中では無意味なものになった。僕のすべての感情は、ただ一筋に君に向かって注がれていたんだと思い知った。  君はどうしているだろう。  大好きだった君の笑顔は、僕の知らない誰かに向けられているだろうか。僕が与えた心の傷跡は、僕の知らない誰かが癒してくれただろうか。  僕は――  僕は変わらず、君を愛しているよ―― 「あ……」  突然カーテンを揺らした一陣の風に、僕は息を呑んだ。  君の写真がひらひらと部屋の中を舞い上がるのを、僕は慌てて追いかけた。それはまるで、あの頃の君と僕のようで……  緩やかな弧を描いて、君がふわりと僕の掌に舞い降りる。ひとひらの桜の花びらとともに。  一瞬、モノクロームの写真に鮮やかな色彩が弾け飛んだように思えた。  眩しそうな光の中で君は僕に向かって零れるような笑みを浮かべ、『早く!』と手を振って誘う。  僕を、許してくれる?  過去へと向かうバリアを抜けて、いつしか僕は君の穏やかな温もりに包まれていく。  揺れ動く心で、僕は必死に腕を伸ばした。  遠くで何かが聞こえる。僕の手が、ようやく君の手に触れる。  ある予感への確信が僕を導く。それは、息もできないほど急激に胸の鼓動を高鳴らせた。  僕は君に微笑みかけて、ゆっくりとツルゲーネフの【初恋】へと写真を戻した。色褪せたカバーを被せ、本棚へと立てかける。 「倫矢(ともや)!」  階下からいつになく弾んだ母の声が聞こえる。 「倫矢! 懐かしい人から手紙よ!」  永い永い時を経て、僕は今、甘やかな春の予感を噛みしめている――。
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