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そして、長い手紙
永瀬倫矢 様
久しぶり。元気ですか。
急な手紙で戸惑っていると思います。
あれから7年も経ってしまいました。
今さら手紙なんてと思ったけど、どうしても伝えておきたいことがあって書いています。
もし俺からの手紙が迷惑だったら、ここから先は読まずに捨ててください。
俺は元気です。
それだけは伝えておきたくて。
さてと。何からどう書いたらいいのか。
実を言うと頭の中がまとまっていません。
まとまっていないまま書いているので、支離滅裂になるかもしれません。
俺のそんなところは君ならわかりきっていると思うけど。
今回も君のその寛大な心に甘えさせてください。
7年前、あんな形で別れることになってしまって君を傷つけてしまったと思います。
この7年、その事がずっと頭から離れませんでした。
君を苦しめて、本当にごめん。
今さら謝っても許してもらえるとは思わないけど。
君はきっと俺の転校が自分のせいだと思っているだろうね。
それは半分当たりで、半分外れ。
父の転勤は以前から決まっていたことでした。
けれど俺は転校が嫌で。転校が嫌というか君と離れるのが嫌で、わがままを言って卒業まで親戚の家に居候することが決まっていました。
それが急に駄目になった。
それがそもそもの理由です。
あの頃、両親の離婚話でちょっと家の中がごたついていたんです。
高校生の俺にはちょっと荷が重かった。家のことも転校のことも、君にはもちろん、誰にも話せませんでした。
俺は君の家族が大好きでした。
温厚なお父さんと、料理上手で優しいお母さん、ちょっと生意気だけれど可愛い妹。うらやましかったな。
君の家でご飯を食べるのは本当に楽しかった。
君は1年の頃から頭が良くて、サッカー部では監督や先輩も一目置く絶対的な司令塔でした。
近所の女子校にファンクラブがあったの、君は知らないだろうね。
白状すると「永瀬くんに渡してください」って、何回か手紙を託されたことがありました。
俺はそれを全て握りつぶしました。すみません。
なんて言うか、「君は俺のもの」っていう傲慢な思いがありました。
君はいつも他人とはやんわりと一線を引いていた。
独特な自分の世界を持っていて、大概の人は玄関から先は入れてもらえない、そんな感じの人だった。
でも、俺にだけは違った。
俺はいつでもどの部屋にでも入れる鍵を渡されている、そう思っていました。
君に唯一甘やかされていることに、俺は優越感を覚えてうぬぼれていたんです。
S校の結城くんを覚えていますか。
1年の時の研修旅行先で俺とちょっと問題を起こした男子生徒。
今でもたまに連絡が来ることがありますが、大学生時代に君にばったり会ったと言っていました。
俺は彼によく怒られます。君に対する態度がなってないと。
「あいつは簡単に扱っていいやつじゃない」って。
君は誰からも大切にされる人。
その君に大切にされる自分に酔っていました。
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