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薔薇の棘
「トモ! ジュンが大変なんだ! S校のヤツに! 早く来てよ!」
あれは5月の研修旅行の時だった。
僕たち1年生には、連休明けに五月病の回避とクラスの親睦を図ることを目的とした研修旅行がプログラムされていた。
宿泊先には同じような目的で来ていた男子校が、僕たちの他に2校あったけど、僕は最初からイヤな予感がしていたんだ。
クラスメイトが息せき切って僕を呼びに来たとき、その予感が当たってしまったことを確信して、僅かな間でも君のそばから離れたことを後悔した。
君ときたら可愛い顔に似合わず喧嘩っ早くて。校内はもちろん、他校の生徒とも何度か騒ぎを起こしていたからね。僕はその度に仲裁に入ったけれど、万が一君に何かあったらと毎回ハラハラし通しだった。
けれど君はそんな僕の心配をよそに、いつだって喧嘩の相手とすぐに仲良くなってしまうんだ。君は不思議と人を惹きつける魅力を持っていたから。
着いた早々廊下ですれ違ったS校の生徒たちは、体格も服装も同じ高校生とは思えないほどで、いわゆる【不良学生】であることは一目瞭然だった。
何となく悪いことが起こりそうな気がして、僕は無意識に君を壁際に庇って歩いたことを思い出した。
「椎名はどこ?」
「薔薇の温室!」
薔薇の温室? 君はそんなところでいったい何をしていたんだ。
僕は走った。全速力で走った。君に何かあったら……!
温室の前には何人ものS校の生徒が見張りについていた。どの生徒も悪そうなのばかりで素手の喧嘩で勝てそうな気がしなかった。
クラスメイトたちは近付くことも出来ず、遠巻きに眺めているだけ。僕の顔を見つけると急に安堵したようだった。
「中に入れてくれないか。椎名を返して欲しい」
僕は温室のドアの前で胡座をかいていたヤツに声をかけた。途端に周りで見張っていた仲間が僕を取り囲んで、その中の一人が僕の制服のネクタイを掴みあげた。
僕は抵抗しなかった。もとより手を出すつもりはない。大事なのは、君を無事に救い出すことだけだったから。
「椎名を返せ」
僕は相手を睨み付けた。
「うるせー!」
いよいよ本格的に相手が僕を締め上げようとしたとき、温室のドアが開いて君が走り出してきた。
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