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遠くに車の騒音が微かに聞こえるだけの静かな海、陽炎のように朧気に揺らめく水平線、白い雲がプカプカと浮かぶ真っ青な空。
僕は真昼の眩しい太陽を腕で遮りながら、このまま、時が止まってしまえばいいとぼんやりと考えた。
こんな純粋な時間を、僕たちはいつまで共有することができるだろうか。
「なぁ永瀬。今度のT校との試合、オレたちベンチに入れると思う?」
「無理でしょ」
「やっぱり?」
夏休みが明けるとすぐ、全国高校サッカー選手権大会の予選が控えていた。最初の相手は宿敵T校。波乱の予選と言われていた。
今までの戦績は10勝10敗3引き分け。前回はうちの学校が負けているとあって、選手も監督も必死だった。1年生の僕たちがベンチに入れる可能性はかなり低い。
「T校にさ、中学の同級生がいるんだ。そいつが今度の試合にスタメンで出るらしいんだよね。キーパーなんだけど」
「1年生でT校のレギュラー? 凄いなそれ。しかもキーパーなんて」
「うん。中学の時から注目されてたから。でさ、この間そいつから電話があって。オレのシュートをセーブするなんて初めてだから楽しみだって」
真面目な練習振り(君がサボった分はいつも僕が穴埋めしていたね)と天性の素質を評価されて、僕たちは最近やっと先輩たちに混じって準レギュラー組で練習することができるようになった。でもT校との試合に出るのはちょっと厳しいかも。
「あぁ! 試合出たいなー!」
「チャンスはあるかもしれないからアピールあるのみ」
「まさかこんなにレギュラー入りが厳しいとはね」
君は手を伸ばして砂を握ると、何かに苛立ったように遠い海に向かって投げかけた。僕には君の気持ちが痛いほどよく解ったよ。試合に出たい。それは僕も同じ思いだったから。
僕には自分のアシストで君にゴールさせるという密かな野望もあったから余計にね。
それきり君は何も言わなくなってしまった。
仰向けに寝転がり、手を枕代わりに頭の下で交差させたまま、君は静かに寝息を立てていた。
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