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転生前
目が覚めた。
辺りが不自然な程静まり返っていたからだ。
背中からは寝転がっているはずのベッドはなく、代わりに硬くひんやりとした質感が伝わってきた。
薄目で周囲を見渡すとそこは真っ黒な空間で、私の右側へ行ったところから青白い光が空間の中を淡く照らしているようだった。
この黒い空間は光を反射していないのか先が見えず、どこまで続いているのかすらわからない。
青白い光の方に視線を向けてみると、それは炎のようにゆらゆらと風もないのに揺れていた。
不思議なことに熱さは感じない。
それなのに見るだけで引き込まれてしまうような錯覚を覚えてしまう、そんな炎だった。
「やぁ。」
上から、嗄れた男の声が響いた。
わからないことだらけの状況なのに、声の響き方的にここは広いところなのだろうか、なんてことをまだ呑気に考えていた。
声を発したのは猫背の、黒いフードを目深に被って怪しげなローブに身を包ませた人物だった。
「だれ」
喉の奥から引き絞った掠れた声が出た。
「どうだったかな。私も覚えていないんだ。」
どうやら、それが私の質問の答えらしかった。
情報を与える気がないのだろうか。
確かに、この人が誰なのか知ったところで何も変わらないのだろうけれど。
「全員起きたようだね。説明を始めようか。」
フードの男に言われて初めて気づいた。
私の他に3人ほど同じように横たわっている。
男女比は半々で男と青白い炎を囲む形で配置されていた。
もう1人の女性の方は、呼吸もままならないほど取り乱していて、
1人の男性は、青褪めた顔で俯きながらぶつぶつと何か話している。
最後の男性は、口を引き結びじっとフードの男を睨みつけていた。
ここは、何処なのだろう。
これから、何が起こるのだろう。
私は4人の中でおそらく1番最後に、何か悍ましいものに巻き込まれたのだと悟り、不安と焦燥に駆られた。
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