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水没都市
そこには沢山の無人の建物が並んでいた。全部無人で何もなくて、ただ優しい寂しさが沈殿していた。スマホには電波を受信してないマークが出て、電話をかけても応答はない。近くの煙草屋の公衆電話に十円を入れても返ってくる。それでも受話器からはプーという音が聞こえて、電気だけは通っていた。コンビニには充分な品揃えされていて、店員だけが居ない。無人コンビニはあるけど、そのレジは少し昔の有人レジで、一応バイト経験あるから動かそうと思えばやれるけど、社員証がそのままレジキーであるから、どうやっても僕には操作できないし、それに、多分何らかの法律に抵触すると思う。
僕は一応メモと税込みのお金をレジに置いて水を買った。怖かったから、少し多めには出しておいたから足りないことはないと思う。それに悪意はないことはメモに伝えてある。
お店の人が居ないのでお金おいておきます。サントリーミネラルウォーターひとつ買いました。
戻って来たら商品バーコードから読み込んで買ったことにしてもらえるだろう。
余分のお金はきっと募金箱か雑費収入扱いかな。お店側が切って購入費として辻褄合わせすると思う。それか、僕が戻ると期待して、お金を保管するかも。いずれにしても戻った時に、事情説明すれば問題ないのかな?
臆病な僕はそう考えながら歩いた。
しばらくすると海沿いに出た。
水がここまで来ていたけど、普通の水だった。何処かで水漏れでもしたのかな? その割には綺麗で穏やかな水だった。買う必要もなかったのかもしれない。それでも僕は近くのベンチで水を飲んだ。美味しかった。冷えていて、それで、懐かしい。水でこんな気持ちになるなんて思わなかった。
誰か居ないかなと見渡すけど、誰も居ない。
それでも越谷レイクタウンのように整備された街は新しくて、海沿いはまるで横浜のようで、日本に似てる雰囲気なのに外国に来たような気持ちだ。寂しさが優しい。
橋が遊歩道沿いに架けてある。その下に線路があって、無人の電車が通ってる。電気はついてるけど、無人だ。
ここは死後の世界かな?何となくそんな気がした。それでも腹はすくからさっきのコンビニで何か買えばよかった。でもお金がないや。仕方なく水で我慢した。でも、不思議なんだ。飲んでも減らないんだ。傾けたら溢れるし、それでも、減らない。何となく夢なんじゃないかと思った。
明晰夢。自分が夢を見ていると自覚している夢。起きたらきっとまた病院のベッドの上なんだろう。沢山の栄養剤、看護師さんいわくほとんど水だから食べないと死ぬわよと言われた。すぐには死なないだろうし、ダラダラと何年も生きると思うけど、その看護師さんは僕と仲良くなっていたから、そんな明るい脅しを言うんだ。
歩は頑張りすぎたんだよ。
母さんはそう言う。
そうだね、僕は頑張り過ぎて死にかけたんだよ。そっか僕は死んだんだ。死後の世界ってもっと色々あると思ったけど、案外寂しいもので、生きてるよりはマシだけど、もう少し期待していた。
ちょっとだけ、生きていたかったな………。
死んでからそう後悔した。
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