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「……それはそうでしょうね」
だって異世界から来たんだもん。
この建物やジェラルドの身につけているものからして、私のいた現代日本のものとは全く違うことは明らかだ。
神殿内の壁に掛けられているのは蝋燭で、見慣れた電気を使う製品は現状見当たらない。
この様子なら、スマホもパソコンもテレビも期待はできないだろう。
そういえば、この世界に来るまでに持っていたはずの学生カバンがない。
あの頭のおかしい神様とぶつかった時に、うっかり路上に落としてしまったのかもしれない。
カバンの中にスマホやら財布やらを入れていたから今の私は無一文ということになる。
取り止めもなく考える私に、ジェラルドはなぜかにこりと微笑みかけてきた。
「ですが、アオイ様というお名前も、不思議なお召し物も、あなたによく似合っております」
「……っ」
気取った様子もなく、ジェラルドがさらりとそんな言葉を口にする。
近寄りにくいと感じるのに。
それなのにこの騎士様は、急にどきりとすることを言ってくるからどうにも調子が狂う。
手にキスとか。お姫様抱っことか。
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