【短編】幸せに

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とてつもなく大きな影。私たちが倒してきた敵の親玉らしく、圧倒的な力だった。 能力を使える人物で構成された組織に勧誘されたのは数年前。私も幼い頃から能力を持っていて、どこからか聞きつけたらしい組織に頭を下げられた。人を助けられるのは嬉しいことだし、できることは少ないけれど私も目標があるからと、一つ条件を出して所属した。 能力には代償が必要である。使用する能力を小さく抑えれば代償は少なく、大きくすればそれだけ重い代償を払わなければならない。私の能力は代償が大きかったので、敵の分析などを頭脳面で補助していることが多かった。敵が弱るとようやく小さく抑えた能力の出番で、浄化を行う。本来は倒した影は消滅してしまう。しかし唯一、私は浄化を行うことができた。 「どう、して……。」 だからこそ戦闘の場に私が立ったことは驚かれても仕方ないと思う。今まで沢山の時を共にしてきた仲間の驚いてる声は珍しくてくすりと笑う。 組織から支給されているガードである一般男子を庇った私は、“同い年”の彼から気まずくて目をそらす。私の代償を彼は“知っている”から、止めようと必死になってくれていた。 彼と敵の間に入って、支給品の力を借りながら防衛戦を続ける。能力を使うには、隙を作るしかなかった。 彼のだめだと、やめてと泣きそうな声が痛い。いつも無表情な“大切な人”は、私のことを少しは大切に思ってくれているのかもしれない。そう思えば圧倒的不利な防衛戦も、何とかなる気がした。 体力が削れてきたのか、向こうの動きが鈍くなり始める。仲間たちも手助けをしてくれているおかげで、隙ができるのもあと少しだった。 「逃げたいなら、逃げていい。」 震える声で彼が言う。逃げ場なんてないけれど、能力だってないけれど、それでも私に手を差し伸べる彼は強いと思った。 でも。 「大切な人のことを守るって、わがままだから。」 ようやく彼の目を見ることができる。“最後”かもしれないのに、あなたに苦しそうな顔は似合わない気がして、困った顔をしてしまうのは許してほしい。 「それに、奇跡を起こしてみせる。」 起こせるかも分からない奇跡を匂わせるなんて、酷いかもしれない。それでも彼に奇跡を信じていてほしかった。自分が死んでしまうことを当然のように受け入れる私じゃなくて、私の覚悟と本気で向き合ってくれている彼に。 『他人を幸せにする能力』。代償は私の命だ。浄化程度なら怪我だけで済み、どこまでの人数をどの程度幸せにできるかは私の寿命に準ずる。 能力を使う準備を始める。命を散らすなら彼のために散らしたいと組織と契約は交わしたが、やっぱり心を落ち着かせる時間くらいほしい。しかし結局はいつの間にか彼のことを考えてしまい苦笑する。 彼は私のことを大切に思ってくれたのだろうか。出会ったことを後悔してないだろうか。少しでも大きな存在になれただろうか。一緒にいて、幸せだっただろうか。 待っていた時が来て、敵が大きな隙を見せた。隙を作ってくれた仲間に感謝をしながら、彼の幸せを願いながら能力を発動する。 「待ってる。」 白い光がこの場を包み込む瞬間、彼の声が聞こえた気がした。
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