プロローグ

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プロローグ

 “彼女”の事前情報はこうだった。  デザイン専門学校の主席、在学中に数々の賞を受賞し、企業案件も既にこなしている超新星(スーパーエリートデザイナー)。  制作実績集(ポートフォリオ)には学生とは思えない緻密なロゴや練られたWEBサイトのカンプが並び、即戦力と言っても過言ではない腕前を見せていた。  しかし、忘れてはならない。  広告業界に於いて、よく見えるように”盛ること”は呼吸をするように自然に行われる。シミのレタッチは3秒でこなすし、都合の悪い写り込みはトリミングで隠してしまえるのだ。つまり、僕たちのような業界の者にとってはイメージ操作はお手のもの。 (さようなら、僕の愛おしき職場)  ここはWEB制作事務所、ステラデザイン。忙しい中でも職場環境と人だけは良い会社ーーであった。 「いい加減にしてください」 「私は在宅勤務が好きだから」 「俺は暫く戻らない」 「恋に浮かれる女の香りがするわァ」  弊社の社員達はこの一ヶ月、感情の乱気流に巻き込まれた。 「あのー、皆さんどうして眉間に皺を寄せてるんですかぁ?」  新入社員、黒須 麗奈。  彼女は腰まで届きそうな長い黒髪をした童顔の20歳でーー所謂集団破壊女(サークルクラッシャー)である。
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