写真立て

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第12話 「聖女様がお越しなりました」 王妃の部屋の前で、侍女がお伺いを立てる。 「入ってちょうだい」 優しい声が、扉の中から聞こえてきた。 王妃は、ベッドのヘッドボードに背中を預けて座っていた。 「わあ」 聖女たちから、思わず声にならないため息がもれる。 窓から陽射しの入る部屋は明るくベッドは天蓋付きで、どの調度品も豪華だがとても上品に見える。 「あなたが聖女なの?わざわざ来てもらって、ごめんなさいね」 気さくだけど、慈しみに満ちた声。 「はじめまして、聖女のアンです」 「あなたが治療をしてくれるのかしら」 「はい。私は王宮の作法なんて知りませんが、治療は頑張ります」 「作法なんて気にしなくていいのよ。全員、聖女なの?」 「はい、さようでございます」 いつの間にか、アン以外の聖女は膝を付いて頭を下げていた。 「頭を上げてちょうだい。大聖女は、偽物だったみたいね」 つい先程の事なのに、王妃の耳には謁見の間での出来事が伝わっているようだ。 「あのもし、私をお疑いなら」 大聖女の偽物扱いされてまで、治療をするつもりはない。 「まあ。誤解をさせてしまったなら、ごめんなさい」 「え?」 「偽物と言ったのは、投獄されている女性のことよ」 王妃様は、スージーこそが大聖女の偽物だと言っているのだ。 「はい、私はただの聖女ですが、ちゃんと治療はします」 アンは元気に答えた。 「ありがとう。あなたを信じるわ」 この時、アンはこの人の為に力を尽くして治療をしようと決めた。 「痛みがあるのは、腰でよろしいですか」 アンは、いつも治療の前に簡単な問診をする。 「そうなの。足は何ともないのだけど、立つと腰が痛くて歩けないのよ」 「では、ベッドの上にうつ伏せに寝て頂けますか?」 王妃様とお付きの侍女に必要な手順を伝える。 「分かったわ。ステラ、手伝ってちょうだい」 「かしこまりました」 侍女は慣れた様子で王妃を下にずらして寝かせた後、回転させてうつ伏せに寝かせた。 「これから手に聖女の力を溜めて、痛みがある所に当てます」 「分かったわ」 目をつぶり両手に聖女の力を溜めるとポオッと手が光始める。 光る手が、王妃の腰に当てられて、ゆっくり腰全体を撫でていく。 「ああ。凄いわ」 王妃の口から思わず、ため息がもれる。 目ではなくて実感として、痛みが和らいでいく。 「あなたこそ本物の大聖女ね。今すぐ踊りたい気分よ」 痛みが、嘘のように消えたと大喜びだ。 「それはダメですよ」 「ふふふ」 15分間、アンは王妃の腰に手を回しながら治療を続けた。 「痛みは和らいだと思いますが、何回か治療が必要です。後は他の聖女でも」 「まあ、患者を途中で放り出すなんて酷いわ」 「そうではなくて、難しい治療は終わったので他の聖女でも出来ると」 これから修道院がどうなるのかが気になって、何度も王宮に来る気になれない。 王宮に来るには、日にちや時間を調整してドレスを用意しなくてはならない。 とは言っても、王にわざと見せる為に普段着ている汚れたワンピースに着替えてしまったけど。 「私はあなたにお願いしたいわ。それとも他に気になることがあるの?」 「はい。実は私たち聖女は修道士から虐げられてきました」 「そうだったみたいね」 謁見の間での話しも伝わっているようだし、アンのワンピースを見て既に予想はしていただろう。 けれど王妃は、さえぎらずに、アンの話しに耳をかたむけてくれている。 「今回、王妃様の治療をしたことで修道院がどうなるのか予想も出来ません」 王は王妃を治したら、願いを叶えてくれると言ったけれど。 治療には、あと何回か聖女の力が必要になる。 その間、司祭や修道士が聖女をどう扱うか予想出来ない。 「よっぽど酷い目に遭ってきたのね。王様も状況は確認に行かせたようだけど┅┅」 王妃は少し考えてから、侍女を近くに手招いた。 「私の腰はかなり改善したわ。陛下に、先に聖女アンの希望を叶えるように言ってきて」 「かしこまりました」 侍女は王妃の命を受けると、直ぐに部屋を出ていった。 「あなたが王様にお願いした内容までは見ていないけど、これで安心出来たかしら?」 「はい。私が責任を持って、王妃様を治療します」 アンは終始、王妃様に怯む事もなく治療を終えた。 「ふふふ、よろしく頼むわね」 「はい。ではまた一週間後位を目処に、治療を行いたいと思います」 最後に、今後の治療の予定について話しをした。 「あなたに任せるわ。何だか疲れたから少し休ませてもらうわね」 アンが大怪我や重病人を治療すると、患者は眠くなることが多かった。 またアンの聖女の力は、麻酔と同じ働きもあり患者の痛みを軽減しながら治療を行えるようになっていた。 他の聖女よりも聖女の能力が高いのは、前世で看護師をしていた知識からではないかとアンは考えている。 「じゃあ、私たちは帰りますね」 「ステラ、聖女たちを送って差し上げて」 「かしこまりました」 聖女たちがお辞儀をして部屋を出ていこうとした時に、アンは振り向いて王妃を見た。 その時にベッドサイドに立てられた写真立てが目に付く。 「え?」 写真には、リュシオン国王と王妃の間に第3王子であるユリス、仲睦まじく写る家族写真が立てかけたあった。 ◇◆◇  アンたち聖女は、王宮の馬車で送られて、修道院に戻ってきた。 警備として送られてきた兵士が、修道院の要所、要所に配置されている。 「これは、何なの?」 アンは、修道院の入り口に立つ2人の兵士に声をかけた。 「これは聖女様方、お目に掛かれて光栄です」 「聖女様方、お帰りなさいませ」 「┅┅」 アンたち聖女は、今まで敬意を払われたことがなかったので、言葉を失っている。 「あの、私どもが何か?」 兵士は、気に触ることでも口走ってしまったかアンに尋ねた。 「そうじゃなあけど。私たちに、そんな風に話しかける人なんていなかったから驚いてしまって」 アンは目の前で両手を広げて、そうじゃないと左右に振って見せた。 「私たち、兵士の身分では聖女様にお会いする機会もありませんでしたから」 兵士たちは頭をかきながら、見当違いのことを話している。 「何がどうなっているの?」 聖女たちは、何が起きているのだろうと、怯えながら修道院の中へ入っていった。
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