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奴隷
第13話
アンたちが修道院に入ると、司祭は資格を剥奪されて下働きを命じられていた。
ガストンやジルを含め5人の修道士たちは、鉄の首輪をはめられて修道院の奴隷に落とされていた。
「あは、あはははは」
アンはガストンたちを見て、お腹を抱えて大笑いした。
「散々私たちをいたぶっておいて、立場が逆転したみたいね」
アンは離れた場所から、ガストンに向かって仁王立ちしている。
「この野郎、言わせておけば、ぐわあ」
ガタン
ガストンがアンに掴み掛かろうとした時に、両方の足首を繋ぐ鎖が引っ張られたことで、ガストンが引っくり返った。
これは大股で走れないように両足首が鎖で繋がれている。
「奴隷の分際で、聖女様に何をしている」
どうやら逆恨みした修道士に聖女が危害を加えられないように、兵士を配置してくれたようだ。
「俺はこの修道院の修道士なんだ。何故いきなり、奴隷にならなきゃいけないんだ」
ガストンがわめき散らす。
「俺だってそうだよ。何がどうなっているのか、誰か教えてくれよ」
ガストンに、つられたのか、ジルも泣き言を並べ立てる。
「ふふふふん。貴族の前では『私め』なんて言ってたくせに、笑わしてくれるわ」
冷めた視線を向けながら、まだガストンたちを笑い飛ばしている。
「この野郎」
兵士に拘束されながらも、ガストンがアンに悪態を付く。
ガッ
「黙れ」
拘束していた兵士が、ガストンの腕をひねり上げた。
「いててて、分かったから止めてくれ」
ガストンは、ようやくおとなしくなった。
「聖女様、私からこの者たちが奴隷落ちした経緯をお話ししてもよろしいてすか」
兵士隊長のロンドが、前に進み出た。
「はい」
急展開に付いていけないシスティナが、説明を聞きたいと顔を覗かせる。
「国王陛下の命(めい)で修道院を調べたところ、聖女様の働きによる対価の搾取(さくしゅ)並びに横領が発覚」
ロンドによると聖女の能力を持っていても、親元を離れたくない娘には強要しないと規則が設けられていたらしい。
親元を離れて喜んできた娘はいなかったが、娘を大金で売った親元に戻りたいと思う娘もいないだろう。
そして貴族の治療を行わせながら、その実は気に入った聖女を貴族が買い取る仕組みが横行していた。
貴族に売っては、新しい聖女を探して金を払い修道院に受け入れてきた。
つまりリュシオン王国中から、聖女の力を持った娘を、王国の金で集めていたのだ。
修道士に取って聖女とは、まさしく金のなる木。
そして聖女スージーと関係を持ちながら、大聖女に抜擢させて王妃の治療をするとたぶらかした罪。
ガストンとスージーの罪は王族侮辱罪と謀反にも相当する。
「修道士とスージーは死刑になってもおかしくない状況だったのですか、陛下の温情て奴隷になったのです」
ロンドの説明を聞いてみればガストンやジルたち修道士は、奴隷にされても文句は言えない状況のようだ。
「ですが聖女様方。もしもこの者たちをお側に置きたくなければ、奴隷市場に売っても構わないそうです」
兵士が見守れるのも一週間程なので、その間に決めても構わないと言われた。
「分かりました」
アンは、皆の意見を聞いて決めることにした。
「奴隷を聖女様方の目に付かない裏庭の塔へ、閉じ込めておけ」
「はっ」
ロンドの命(めい)で、ガストンたち奴隷は裏庭の塔に連れていかれた。
「塔と言えば、マディはどうなりましたか?」
アンは、ずっと気がかりだったマディの事をロンドに聞いた。
「塔に幽閉されていた聖女様ですね。体が弱っていたようなので診療所に運びました」
「大丈夫なんですか?」
「病気ではないので、数日で戻られるそうです」
「良かった。ありがとう」
アンがいない間にマディを気にかけてもらって、ロンドには心から感謝した。
「スージーはどうなるの?」
スージーの取り巻きだったジョセッタが、兵士に質問した。
「ご友人だったのですか?明日には戻りますが、王室を侮辱した罪で奴隷落ちとなりました。残念な結果です」
ロンドはジョセッタに気遣いを見せる。
「はっ、まさか」
ジョセッタの答えは、ロンドとアンが思っているのとは違っていた。
「私はずっと、スージーの召し使いのように扱われてきたの。ガストンたちが恐くて逆らえなかったけど」
ジョセッタは修道院で生き残る為に、スージーの言うことを聞いてきたのだろう。
「それなら安心しました。奴隷に同情して逃がすのも罪に問われますから」
兵士の話しに、聖女たちは少しざわついた。
「え?え?あの、あの勝手に逃げられたら、どうすれば?」
普段からおとなしい聖女ケイトが慌てだす。
「雇い主が解放するのは自由です。ただ、修道院の奴隷は王国所有となっているので逃げれば逃走罪です」
逃走罪と聞いて、ケイトは真っ青になる。
ケイトは、聖女の中で一番の恐がりなのだ。
「私たちは外におりますので、何かあれば声をかけて下さい」
「分かりました」
アンは、ハキハキとした声で答えた。
「さあ、横暴な修道士もいなくなったし食事でも作ってもらおう」
「そう言えば、お腹空いたわ」
アンの提案に、皆が賛成した。
食堂の奥に台所があり炊事係のモアに声をかけると、既に食事が準備されていた。
聖女たちの食事だけではなくて、兵士と元修道士たちの食事も準備されている。
アンは、兵士の元へ行き兵士たちとガストンたちの食事が出来たと伝えた。
兵士が塔へ上り、元修道士たちに食事を運んでいくことになった。
メニューは聖女たちと同じ物でパンとチーズと、今まではアンたちには与えられなかった野菜入りのスープ。
「野菜スープなんて、何年ぶりかしら」
温め直された野菜スープをスプーンですくって口に運んだり、パンを浸して食べた。
修道士がいないだけで、食事がこんなに美味しいなんて。
アンは修道院に来て初めて、お腹も満たされて賑やかな食事を楽しんだ。
しかし水面下では、アンたち聖女VS元修道士とスージーによる対決が、幕を開けようとしていた。
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