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「いい?今日、僕は『私』」
「私は『僕』ね」
私達、いや、僕達は沢山の人が行き交う駅前で短い言葉を交わし、頷きあった。
私、桜井真琴、高校一年生。
柳優也、同じく高校一年生。
身長170センチ、黒髪ショートカットで切れ長の目。そんな私がズボンをはくと、16歳にも関わらず、よく男の子に間違われた。制服なんかは女装しているようにしか見えず、自分でも滑稽だなと笑えてしまう。にも関わらず野暮ったく見えないのは、この身長と元モデルである父に似た顔のお陰だ。
柳とは高校に入ってから知り合った。
身長165センチ、ダークブラウンの髪色と、小さな顔に不釣り合いな大きな目と長いまつ毛を持つ彼。骨格は確かに男の子だけれど、制服の半袖シャツから伸びる腕は華奢で、喧嘩より手芸とかが似合いそうな男の子だった。
「男の子だったら良かったのに」
「女の子だったら良かったのに」
互いに周りからずっとそう言われ続けていたと知ったのは、入学後間もない掃除の時間。
私も、そして柳も自分が異性だったら良かったのにと思った事があると知り、意気投合した。これは二人だけの秘密で、普段はそれぞれ同性のグループ内にいる。
「ね、逆転デートしてみようよ」
そう言い出したのは柳だった。
ニコリと一つ微笑んで「学校帰りにアイスでも食べに行こうよ」とでも言うような軽いノリで、逆転デートと宣ったのだ。放課後の教室で残ってテスト勉強をしていた私は、目と口を最大限に開いた。
「えっ?!どうやって?ってか、まず服どうするの?私はズボンにTシャツで何とかなるけど、柳は、」
変わったヤツだ。いや、私もか。
そう思いながら、「男の子」になってみたかった私は一も二も無く身を乗り出す。
「姉ちゃんがいるから、服を借りれるんだ」
ニヤリ、と柳が笑った。柳にお姉さんが居るのをこの時初めて知った。
「服はどうにかなるけど、髪の毛は」
「ウイッグを被る」
「えっ?!ウィッグなんか持ってるの?!」
思わず大きな声を出すと、柳は眉をひそめ人差し指を柔らかそうな唇の前に立てる。
「しーっ。姉ちゃんが趣味でコスプレをやってて、何個か持ってるんだ。それを拝借するよ」
うわ、何それワクワクする。
もうテスト勉強の事なんか頭から抜け落ちていた。
「いつ?いつにする?いつでもいいよ!」
「金曜日、テスト最終日。学校が半日の日に決行しよう」
「うん」
それから私は勉強そっちのけで、柳と作戦会議をした。テスト最終日、私が服を持って学校に行き、帰りに柳の家に寄る。柳も私もそこで着替えを済ませ、電車で隣町まで移動するというものだった。クラスメイトにバレないように、隣町の駅に着くまでは帽子、マスク、サングラス着用。まるで芸能人みたいでワクワクする。
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