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迎えた金曜日。
テストなんか上の空で、学校にいる時間がやたら長く感じた。チラリと柳を見ると、彼も落ち着かなさそうにソワソワしている。テストが終わると早々に鞄を持ち、私と柳は教室を後にした。
柳の部屋に入り、互いに背を向けて着替えを済ます。
ドキドキする、色々な意味で。
クラスメイトに会わないかな。
柳と私だってバレないかな。
私は先に着替え終わり振り返った。
そこには既にウィッグをかぶり、完全に女性になりきった柳がいる。
……柳、可愛いな。
「桜井、本当に違和感無いね」
「その言葉、そのままソックリ柳に返す」
顔が中性的でも骨格まではごまかせない。だから互いになるべく骨格が目立たない服を選んだ。私は細身の黒いパンツにオーバーサイズの半袖シャツ。柳は丈の長いシフォン素材の半袖ワンピース。お姉さんと体型に大差が無いらしく、服も、服に合わせたサンダルもサイズはピッタリだった。
違和感があるとすれば、玄関でかぶった変装用の帽子、マスク、サングラスだ。あからさまに芸能人のお忍びデートっぽくて、二人して笑った。
柳の家を出て、駅に向かう。
時々すれ違う同高の制服にドキドキしながら、コソコソと小声で会話する。私はずっと気になっていた事を聞いた。
「トイレどうしよう」
「半日くらい我慢して」
「えー…だってハンバーガー食べるんでしょ?ジュース飲むでしょ?トイレ行きたくならない?」
「……」
サングラスをしているため、柳の表情は見えない。少しの間を置いて彼は口を開いた。
「女子トイレに入ったら騒がれるか…。お腹痛い!とか言いながら男子トイレの個室に入ればいいんじゃない?」
やはり男子トイレか…。
いや、個室に入る事は私も考えたが、その為には小便器の前を通過しなければならない。つまり、他の男性が用を足しているかも知れないのだ。
「うひゃぁ……」
「別に、桜井が気にしないなら女子トイレ入ってもいいんじゃない?」
うーん。
いつもに増して男の子感がアップした姿では、間違いなく変態だと思われるだろう。下手したら叫ばれかねない。その時は女性だとカミングアウトするか…
「ってか、柳はどうするの?」
「我慢するけど、どうしても行きたくなったら女子トイレに入る。こんな姿で男子トイレ入ったらまるきり痴女じゃん。男性ですってカミングアウトしても変態扱いされるし」
「確かに……」
「女子トイレは全部個室だからあんまり気にならないしね」
ある意味柳の方が腹が据わっていた。
まぁ、その時考えればいいかと思っている内に無事駅に着き、電車に乗り込む。
「………」
「柳~、何食べる?」
二人がけのイスに座ると、私は今から行くハンバーガー屋のメニューをスマホでチェックし始めた。
「あ、ほらほら、ダブルチーズバーガーとかめちゃくちゃ美味しそうじゃない?」
「……」
「サイドはポテト…あっ、オニオンリングもある!柳はどうする?」
「……」
「柳?ちょっと、何か言いなよ」
「桜井」
「はい」
黙って一緒にスマホを見ていた柳が声をひそめた。
「僕、これでも一応声変わりしてるんだ」
「あ……」
「あんまり喋りすぎると、男だってバレる。会話は最小限で。因みに僕はダブルチーズバーガー、サイドはポテト&オニオンリングのハーフ&ハーフで。飲み物はコーラ」
「わ、分かった……」
あれこれお喋りも楽しみたかった私はちょっとだけガッカリした。
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