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隣町の駅に着くと、サングラス、帽子、マスクを外す。改めて見る柳は、やっぱり可愛かった。
「いい?今から、僕は『私』」
「私は『僕』ね」
駅を出る。
ハンバーガー屋は、ここから歩いて10分くらいだ。隣町はオフィス街と繁華街があり、面積が広く人も多い。はぐれてしまわないよう握った柳の手が思いの他小さくて、僕が彼女を守らなくちゃと思った。
すれ違う人。
信号待ちの人。
車に乗ってる人。
あらゆる人の視線が気になり、ついついキョロキョロしてしまう。
パッ、とガラス越しにコンビニ店員と目が合った。一瞬ドキリとしたけれど、そのコンビニ店員は何も無かったかのように視線を逸らした。
再び前を向いて歩くと、スーパーの前で店員とお喋りしている主婦と目が合う。しかし先程と同様、何事も無かったかのように主婦は視線を逸らし店員と喋り続けていた。先程より、ドキリとしなかった。慣れてきたのかも知れない。
柳をちらりと見た。
彼女も視線をキョロキョロと漂わせている。
「柳、」
名前を呼ぶと、彼女はビクリと肩を揺らしこちらを見た。
「大丈夫、可愛いよ」
そう言って微笑むと、彼女は顔を真っ赤にして視線を逸らす。女の子をエスコートする男の子って、こんな感じなのかな。自分の言葉一つで、顔色が変わってしまう。可愛くて仕方ない。彼女にこんな顔をさせられるのは、僕だけ。本当は付き合っていないけど、今日はデートだから恋人気分も味わいたい。
ぎゅっと手を握り直し、僕達はハンバーガー屋へと向かった。
極力喋らないように。
柳があまり喋らないから、僕も必然的に無口になる。店に着くとモバイルオーダーをして、出来上がりを受け取り口の前で待った。店員さんや出入りする客を観察する。店員さんは目の前にいるし、こんなに沢山の人が出入りするのに誰一人視線が合う人はいなかった。
レシートの番号を照合してハンバーガーのトレーを受け取り、僕たちは店の一番奥の目立たない席に座る。
「はぁ~、楽しいんだけど、何かちょっと疲れちゃった」
「私も」
スプライトを一気に半分程飲み干すと、僕はぐっと身体を伸ばした。狭い場所に閉じ込められていた訳でも無いのに、何故か窮屈に感じて身体を伸ばしたくなった。その様子を見て柳はクスリと笑い、コーラを口にする。
僕も彼女もお腹が空いていたので、夢中でハンバーガーを食べた。ダブルチーズバーガーはボリュームがあり、口を大きく開けなければ食べられない。二人して、ガブリと齧りつく。
「美味しい!」
僕の言葉に柳も笑顔で頷いた。
ハンバーガーの食べ方に男女は関係ない。
ポテトもオニオンリングも塩気があって美味しかった。あっという間に完食すると、席を立つ。ゴミを捨てトレーを返却しようとした時、同高の制服のグループとすれ違ったけれど僕達には全く気付いていない様子で、それが何故か可笑しかった。隣を見ると、柳も笑っていた。
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