3回目の告白

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***  洸は、今日も改札を出たところにいた。  私に気づいて、小さく手をあげてくる。  わざと1本遅い電車に乗ったから、洸はたぶん30分くらい待っていたはずだ。  それなのに、涼しい顔をしている。 「売店で買い物してたから……」  遅くなった理由を、私は言い訳がましく説明した。  売店に文房具を買いに行ったのは本当だ。  でも、急げば授業終わりの電車に間に合った。  それなのにゆっくり帰ってきたのは、洸が私と一緒に帰るのを諦めてくれるのではないかと思ったからだった。  謝るのは違うと思いながらも、洸を待たせたことに、何となく罪悪感を覚えてしまう自分がいる。 「僕が勝手に待ってただけだから、気にしなくていいよ」  洸は、爽やかスマイルでそう返してきた。  待たんでええねん。  喉元まで出かかったそんな言葉を飲み込んだ。   「そういえば、」  歩き出しながら、私は何気なく呟いた。 「洸くん、放課後の練習は……」  途中で慌てて言葉を切る。  今朝の教室での会話について訊きたかったのだけど、これではまるで、私が聞き耳を立てていたみたいだ。 「ああ、聞こえてた?」  洸が笑って言う。 「違、たまたま、ホントたまたま聞こえて、練習に出たらいいじゃんって思ったから」  私は弁解に必死になる。 「あはは。サボっちゃった。あの子たちには内緒ね」  洸は、唇に人差し指を当ててウィンクした。  その姿は、悔しいくらいサマになる。 「言わないよ。何の練習かも知らないのに」  眼鏡をずり上げて、無駄にドキドキさせられたのをごまかした。 「シンデレラだよ」 「え?」  思わず訊きかえすと、私が興味を持ったと思ったのか、洸はにっこりした。 「僕たち、文化祭でシンデレラの劇をするんだ。その練習に出なきゃいけなかったんだけど、サボっちゃった」  道幅が狭くなって、私の後ろに移動しながら、洸はそう説明した。  やっぱりこの人はちゃんと文化祭に参加するんだな、と思った。  部活にも入らず、文化祭に行く気すらない私とは、住む世界が違う人間だ。  そんなこと、最初から分かっていた。 「まあでも、毎晩オンラインで練習してるし、シンデレラの王子役は初めてじゃないから、サボっても問題ないよ」  少しテンションが下がった私をよそに、洸が饒舌に言う。 「あ、そうだ。理乃ちゃんも出る?それだったら僕も放課後ーー」 「で、出ないよ、こんな直前に。シンデレラのストーリーも知らないのに」  慌てて断った。  勝手に話を進められては困る。  文化祭は今週末だ。   「そっか。僕は学芸会とかで何回もシンデレラの劇をやったんだけど、理乃ちゃんの学校ではやらなかったんだね」  洸は、シンデレラを知らない私を馬鹿にしなかった。  さすがの私も、シンデレラが有名なことぐらいは知っているけれど。  お母さんが、ディズニーの映画はくだらないから見てはいけない、と言ったのだ。  白馬に乗った王子様と結婚して幸せに暮らしました、なんて、ありえないからと。  幸せは男から与えられるものではなくて、自分から掴み取るものなのだと、私に繰り返し言い続けた。  それで私はディズニーから距離を置いてきた。  シンデレラのストーリーを知らないのはそのせいだ。 「シンデレラはディズニーの映画でねーー、」  洸がそう話し出す。  どうやら私にシンデレラのストーリーを教えてくれる気らしい。  興味はないけど、黙って聞き流すことにした。
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