3回目の告白

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「理乃ちゃんは、どういうお話が好きーーいたっ」  強い風が吹き抜けた時、洸が急に痛そうな声を出した。 「どうしたの?」 「目の中に何か入った」  見ると、目を擦ろうとしている。 「ダメ」  慌ててその手を掴んだ。  パパが目に枝の切れ端が入った時、擦ったせいで角膜が剥がれて大変なことになった。 「我慢して、何回かまばたきしてみて」  眼科の先生から教えてもらった対処法を伝えながら、鞄から目薬を取り出す。 「これ、良かったら。人の目薬なんて使いたくないかもしれないけど、開けたばかりだから」  そう言って、洸に差し出した。 「ありがとう……取れたかも。でも、目薬使わせてもらってもいい?」  洸は私から目薬を受け取ると、目に差した。  再び何度か瞬きをしている。  右目から目薬があふれて、頬を伝い落ちた。 「取れた?見せて」 「うん。痛くなくなったから取れたと思う」  そう答える洸の右目を覗き込む。  よく見えなくて、眼鏡を外してさらに覗き込んだ。  下まぶたのふちに、細かい木片のようなものが引っかかっているのが見えた。 「動かないで」  慎重にそれを取り除く。  白目が少し充血しているけど、もう大丈夫だろう。 「あの、理乃ちゃん……」  洸に名前を呼ばれて、自分が無意識に洸の頬を押さえていたことに気づいた。 「あ、ごめん、つい」  手を離して、一歩後ずさる。  洸は、目だけじゃなくて、顔全体が赤くなっていた。 「やっぱり、理乃ちゃんは演劇に出なくていいや……」 「え?」  眼鏡をかけながら訊きかえす。  その話はとっくに終わったと思っていた。  まだ諦めてなかったんか。  呆れる私に、洸は言った。 「劇なんか出たら、可愛いのがみんなにバレちゃう」 「なっ」  何やそれ。  そんなチャラいこと言われるんは、一番嫌いや。  せやのに、何で心臓がドクドクうるさいんやろ。   「ちゃんと見えてる?もっと目薬差した方がいいんじゃない?」  動揺を押し隠して、冗談で返す。 「あはは。目薬を使わせてもらったおかげで、はっきり見えてるよ」  はっきり見えてるよ、やないわ。  何なん、こいつ。 「私の父親が目を擦って大変なことになったことがあるから、ちょっと心配しただけ。ホント、それだけだから」  心臓を落ち着けたくて、くどくど言う。  自分が何に動揺しているのかも分からずに。 「うん。ありがとう」  洸はすっかり平常運転だ。  なんかムカつく。    気づけば、お母さんの事務所のマンションの前だった。   「参ったな」  逃げるように別れを告げようとした私に、洸は言った。 「理乃ちゃんのことが、どんどん好きになる」 「ちょ、ホントに、冗談やめてよ」 「冗談でこんなこと言わないよ」  絶対。  絶対絶対絶対。  この人は私のことをからかって、面白がってるだけだ。  だから、騙されるな、私。 「じゃあ、また明日ね」  洸は、あっさりと別れを告げて、そのまま歩いて行った。  本当に、意味不明だ。  可愛いとか好きとかはサラッと言うくせに、少し見つめ合っただけで赤くなる。  女子に慣れてるんだか慣れてないんだか分からない。  いや、それはどうでもいいのだ。  とにかく、洸の『好き』を真に受けてはいけない。  いちいちドキドキするな、私の心臓。
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