4回目の告白

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「あのさ」  黙って歩く洸に、ずっと気になっていたことを訊いてみることにした。 「何で他の場所では私に絡んでこないの?」  洸は、駅からの帰り道にしか私に話しかけてこない。  学校でも、さっきの電車の中でも、私のことを無視してくる。  まるで、見えていないみたいに。  洸は、私の問いにすぐには答えなかった。 「理由を言ったら、理乃ちゃんに最低だと思われそうだな」  そう呟いて、答えるのを渋った。 「ああ、やっぱり」  洸のその反応を見て確信した。  洸は、複数の女の子とこういうことをしているのだろう。  私と一緒にいるところを他の女の子に見られたら困るから、他の場所では話しかけてこないのだろう。  そんなこと、分かってた。  むしろ安心した。  本当に私のことを好きだったら、どうしようと思っていた。 「ちゃんと入ってて」  洸が、傘を反対の手に持ち替えて、私の腰を引き寄せる。  洸から無意識に距離を空けていたようだ。  にしても、口で言えや。  急に触られたら、心臓に悪いやろ。  心の中でそう罵っていると、傘を持つ洸の腕がびちょびちょなのに気づいた。 「洸くんこそ、ちゃんと入ってよ」  仕方なく、洸の手の上から傘の柄を握る。 「あ、ごめん、本当に溶ける」  洸が急に立ち止まったから、私もつんのめるようにして足を止める。  洸の手がガクガクと震えているのに気づいて、慌てて手を離した。 「何アホなことゆうてんの」  自分はやりたい放題しておいて、私から近づくと大げさに動揺してみせる。  本当に、洸のことが分からない。  慣れてるくせに。 「ねえ、ノノちゃん具合悪いんでしょ?早く帰らないと」  立ち尽くしたままの洸に、そう声をかける。  言ってから、しまったと思った。  教室での会話を盗み聞きしてたことがバレてしまう。  わざとではないけれど。 「ノノは、具合が悪いわけじゃなくて……」  洸は、私が盗み聞きしたことを責めることなく、そう答えた。  具合が悪いわけではない?  洸は、飼い犬の病気を理由に、放課後の練習に出るのを断っているようだった。  それは嘘だったのだろうか。  私と一緒に帰るために?  いやいや、都合よく考えるな、私。  いや、都合よくって何やねん。 「あのね、理乃ちゃん」  ひとりで混乱している私に、洸が真剣な目を向けてくる。 「誤解してると思うけど、僕が好きなのは、理乃ちゃんだけだよ」  まさか。  そんなこと、ありえない。 「信じてないね」  私の心を読んだみたいに、洸は力なく笑った。 「でも、信じてほしい。僕が他の場所で理乃ちゃんに話しかけないのは、理乃ちゃんに迷惑をかけたくないからなんだ」  洸のこめかみを、雨の雫が流れ落ちる。 「僕は、自分で言うのもなんだけど、女の人から執着されやすくて、誰か1人を特別扱いすると、大変なことになるんだ。 みんなの前で理乃ちゃんに話しかけたら、特別に思ってるのがバレて、理乃ちゃんを嫌な目に遭わせちゃうから……」  そんなことを、深刻なトーンで言うのだ。 「ほんまに自分で言うのもなんやな」  思わず、関西弁全開でツッコミを入れてしまった。  茶化さないと、感情がぐちゃぐちゃになりそうだった。  信じたい自分と、流されまいとする自分の間で。    洸は、急に私に傘を押し付けたかと思うと、傘の外に駆け出した。 「え、ちょっ」 「時々出る理乃ちゃんの関西弁、マジで可愛い!」  雨に打たれながら、顔を両手で覆って叫んでいる。  ……な、何事やねん。 「脳が溶ける。可愛すぎてホント無理。好き。めちゃくちゃ好き」  雨音に負けないくらいの声量で、洸は叫び続ける。  何なん、この時間。  私、帰ってええか?  しばらくして洸は、何事もなかったかのように私のもとに戻ってきた。 「取り乱しそうになったので、頭を冷やしてきました」  自らの奇怪な行動を、そう説明した。  じゅうぶん取り乱していたように見えたけど。 「それで、信じてもらえた?」  歩き出しながら訊いてくる。 「僕が好きなのは理乃ちゃんだけだって」 「もうどうでもいいよ」  私はそう言って、洸の頭上に傘を差しかけた。  雨に濡れた髪が伸びて、洸はいつもよりも幼く見える。 「どうでもよくはないなぁ」  傘を私の方に傾けながら、洸が不本意そうにそう呟いている。
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