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「何かあった?」
お母さんの事務所を思い出したことで気持ちに余裕ができた私は、洸にそう尋ねた。
先ほどの洸の真顔が、目に焼きついていた。
「ん?」
洸が、何の話?というように訊きかえしてくる。
「洸くん、さっきちょっと落ち込んでるように見えたから。あ、でも、気のせいかも……」
言いながら自分に自信がなくなってきた。
考えてみたら、いつもひとりでいる私に、人の感情が読めるはずがない。
思考がマイナスへと傾いていく。
「ああ。あはは」
そんな私の横で、洸は屈託なく笑った。
「気を抜いてるとこ見られちゃったね」
笑みの残る顔でそう言った。
やっぱり落ち込んでたんか。
自分が間違っていたわけではないと分かって、少しホッとした。
でも、洸はそれ以上、何も話さなかった。
黙ってしまったのは、この話を続けたくないからだろうか。
そりゃそうだ。
洸が私に個人的なことを喋る筋合いはない。
私がズケズケと立ち入ったことを訊いたから、引かれたかもしれない。
そんなことをぐるぐると考えて、私も何も言えなくなってしまった。
重たい沈黙が落ちる。
思考がどんどんネガティブな方に落ちていく。
こんなにコミュニケーション能力が高そうな人を黙らせるなんて、私はよっぽどつまらない人間なのだろう。
絡まなきゃ良かったと思われてるだろうな。
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