1回目の告白

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***  結局、互いにひと言も喋ることなく、お母さんの事務所があるマンションの前に着いた。 「家、ここだから」  私がそう言うと、洸は鞄を返してくれた。  でも、手を離してくれない。 「あのーー」 「どうしよう」  言葉がぶつかって、洸に譲った。 「どうしよう。離したくない」 「え?」  ふざけてるのかと思って洸の顔を見るけど、冗談を言っているようには見えない。  ーーいやいや。  洸の言葉を信じかけた自分に、心の中でツッコミを入れる。  ーー離したないぐらいやったら、もぉちょい饒舌に喋るやろ。   「えっと、洸くん」  私が名前を呼んだら、洸は伏せていた目をあげて、こちらを見た。  やっぱりちょっとパパに似てるな。  やなくて。 「私、冗談とか通じないから……」  だから、からかわないで。  そんな思いを込めた。 「僕もだよ」  洸は同調して言った。 「僕、やっぱり理乃ちゃんのことが好きみたいだ」    好きてーーあの好きか?  いやいやいや、そんなわけあるかい。  ほとんど喋ったことないやんか。    私の心の中が関西弁の嵐になっている間にも、洸は言葉を続ける。 「理乃ちゃんの隣は何だか温かくて、ノノと一緒にいる時以外にこんな気持ちになるの、初めてなんだ」  ノノって誰やねん。  彼女か?  ……何でもええわ。  こんなん、関わってられへん。  どうせ私のことからかって、面白がってるだけや。 「えっと……」  私が返しに困っていると、洸はやっと私の手を離した。 「ごめんね、いきなり」  そう謝って、自分の鞄を肩にかけ直している。 「じゃあね」  私にあっさりと別れを告げて、来たのと反対の方向へと歩いていった。  その場にひとり残された私は、しばらく関西弁の独り言が止まらなかった。
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