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「な。イケメンやったやろ?」
家の中で、知慧を抱き抱えたパパが、のんきに言った。
「あんなのに理乃が目をつけられたかと思うと、ゾッとするわ」
お母さんが吐き捨てるように言い返す。
「何でえな。絶対モテるで、あの兄ちゃん」
「モテるとか、そういうのがくだらないって言ってるのよ!」
お母さんのヒステリックな声に、知慧がぐずりだす。
お母さんは、パパから奪い取るように知慧を抱きとった。
「真面目そうな子ならまだいいわよ。一緒に勉強してたのねって思えるから。でも、見るからに軽そうな子じゃない。あんな子と付き合ったら、理乃のレベルが下がるわ」
声を落として、そんなことをまくしたてた。
「勝手なこと言わないでよ」
私は生まれて初めてお母さんに立ち向かった。
「洸くんは、チャラそうに見えるけど、本当は真面目で、努力家で、優しい人だよ。何も知らないくせにあんなこと言ったら失礼じゃん」
「あなた騙されてるのよ」
「騙されてなんかない」
「目を覚ましなさい。あんな子を好きになったって、しんどいだけよ」
……しんどいだけ?
それは何だかよく分からない言い分で、私は少し呆気に取られた。
「いい?ああいう外面がいい男には、女が寄ってくるの」
お母さんは、知慧の背中を叩きながら、くどくどと言う。
「そんな男に目をつけられたら、たまったもんじゃないわよ。いつ取られるかって心配ばかりしてなきゃいけなくて、気の休まる時がないの。
それよりは、少しぐらい見た目が悪くても、自分だけを大事にしてくれる人の方が、ずっといいわ」
何の話だ。
今は洸のことが気に入らないという話ではないのか。
お母さんが何を言っているのか分からなくて面食らった。
「それは、俺のことか?」
私が何も言い返せないでいると、パパが横から口を挟んできた。
お母さんがギロリと睨む。
「理乃には、私と同じ思いをさせたくないのよ」
それって……。
「そんなん、俺とお前の問題やんか」
私の代わりに、パパが指摘する。
「理乃は賢い子やで、自分でちゃんと考えて、自分にとって一番良いもん選ぶわ。信じてやらな。なあ」
そう言って、私に同意を求めてきた。
パパにしては正論だけど、お母さんの神経を逆撫でするようなことはしないでほしい。
「あんたに言われたないわ」
お母さんが尖った声で言い返す。
でも、関西弁になっている。
お母さんがもうそんなに怒っていない証拠だ。
「理乃があんたみたいなん好きになってもて、せっかく離れて暮らしてたのに意味ないやん。どうしてくれんの」
お母さんの恨みがましい口調に、パパがわははと声をあげて笑った。
……ん?
「え、私が洸くんのこと好きって言ってる?ないから。変なこと言わないでよ」
親にバレるとか、死ねる。
「何や、赤なってんで」
「なってへんわ!」
あ。
思わず関西弁になってしまった。
でも、お母さんは怒るかと思いきや、やれやれといった表情だった。
「事務所に連れ込むのだけはあかん。一緒に勉強するんやったら、家でしぃ」
お母さんはそう言って、盛大なため息をついた。
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