9回目の告白

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*** 「な。イケメンやったやろ?」  家の中で、知慧を抱き抱えたパパが、のんきに言った。 「あんなのに理乃が目をつけられたかと思うと、ゾッとするわ」  お母さんが吐き捨てるように言い返す。 「何でえな。絶対モテるで、あの兄ちゃん」 「モテるとか、そういうのがくだらないって言ってるのよ!」  お母さんのヒステリックな声に、知慧がぐずりだす。  お母さんは、パパから奪い取るように知慧を抱きとった。 「真面目そうな子ならまだいいわよ。一緒に勉強してたのねって思えるから。でも、見るからに軽そうな子じゃない。あんな子と付き合ったら、理乃のレベルが下がるわ」  声を落として、そんなことをまくしたてた。 「勝手なこと言わないでよ」  私は生まれて初めてお母さんに立ち向かった。 「洸くんは、チャラそうに見えるけど、本当は真面目で、努力家で、優しい人だよ。何も知らないくせにあんなこと言ったら失礼じゃん」 「あなた騙されてるのよ」 「騙されてなんかない」 「目を覚ましなさい。あんな子を好きになったって、しんどいだけよ」  ……しんどいだけ?  それは何だかよく分からない言い分で、私は少し呆気に取られた。 「いい?ああいう外面がいい男には、女が寄ってくるの」  お母さんは、知慧の背中を叩きながら、くどくどと言う。 「そんな男に目をつけられたら、たまったもんじゃないわよ。いつ取られるかって心配ばかりしてなきゃいけなくて、気の休まる時がないの。 それよりは、少しぐらい見た目が悪くても、自分だけを大事にしてくれる人の方が、ずっといいわ」     何の話だ。  今は洸のことが気に入らないという話ではないのか。  お母さんが何を言っているのか分からなくて面食らった。 「それは、俺のことか?」  私が何も言い返せないでいると、パパが横から口を挟んできた。  お母さんがギロリと睨む。 「理乃には、私と同じ思いをさせたくないのよ」  それって……。 「そんなん、俺とお前の問題やんか」  私の代わりに、パパが指摘する。 「理乃は賢い子やで、自分でちゃんと考えて、自分にとって一番良いもん選ぶわ。信じてやらな。なあ」  そう言って、私に同意を求めてきた。  パパにしては正論だけど、お母さんの神経を逆撫でするようなことはしないでほしい。 「あんたに言われたないわ」  お母さんが尖った声で言い返す。  でも、関西弁になっている。  お母さんがもうそんなに怒っていない証拠だ。 「理乃があんたみたいなん好きになってもて、せっかく離れて暮らしてたのに意味ないやん。どうしてくれんの」  お母さんの恨みがましい口調に、パパがわははと声をあげて笑った。  ……ん? 「え、私が洸くんのこと好きって言ってる?ないから。変なこと言わないでよ」  親にバレるとか、死ねる。 「何や、赤なってんで」 「なってへんわ!」  あ。  思わず関西弁になってしまった。  でも、お母さんは怒るかと思いきや、やれやれといった表情だった。 「事務所に連れ込むのだけはあかん。一緒に勉強するんやったら、(うち)でしぃ」  お母さんはそう言って、盛大なため息をついた。
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