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「悪かったなぁ、洸くんのことお母さんに喋ってまって」
お母さんが知慧をお風呂に入れにいった後、パパが私の部屋に謝りにきた。
「まあでも、結果オーライやろ」
勝手に自己完結してくる。
そういうとこやで。
「ゆうとくけど、洸くんとずっと事務所にいたわけちゃうからね」
変な勘違いをされたくなくて、そう訂正した。
「何や、やっぱり遊びにいっとったんか」
「遊びにゆうか、緑葉の方に散歩に行っててん」
「ああ、兄ちゃん緑葉に住んでるゆうてたな。理乃が小さい頃、緑葉の公園によう連れてったなぁ」
パパが懐かしそうに言う。
そうだ、犬のことを訊いてみよう。
「あのさ、私、緑葉で犬拾ったことある?」
私は単刀直入にそう尋ねた。
「あるよ?さっきの絵ぇがそうやん」
パパが即答する。
「お母さんに見つかって、そんなもん飼えん、元いたとこに返してきぃ言われて、理乃がひとりで返しにいったんやんか。俺そん時おらんくてなぁ」
言いながら、パパは私のベッドの上に腰を下ろした。
気安く座らんでよ、と怒りかけたけど、自分も事務所でパパのベッドに座ったのを思い出して、飲み込んだ。
というか、よう考えたら私、洸と添い寝したんやな。
今頃になってドキドキしてきた。
「私、その犬に名前つけてた?」
洸は、私のことを運命だと言った。
その言葉を、私は深く受け止めなかったけど、もう逃げたくない。
逃げ場もないくらい、運命だと思い知りたい。
「おう、ノノて呼んでたやんか」
パパの答えは、決定的だった。
「ほんなら、洸くんが言ってたんは、ほんまのことやったんや……」
娘の呟きに、パパが「何の話や?」と訊きかえしてくる。
私もパパの隣に座った。
「あんな、その犬を引き取ってくれたんは、洸くんやってん」
パパにそう打ち明けた。
「1ヶ月前に死んでまったらしいけど、大事に育ててくれててん」
「ほうやったんか」
パパは驚いたように言った。
「ほな、あのネクタイ、洸くんのかいな」
「ネクタイ?……ああ、あの段ボール箱に入ってたのん?」
さっきパパが手にしていた、紺色のネクタイのことだろう。
でも、あれは明らかに大人もので、小学生がつけるようなものではなかったけど。
「そうや」
パパが断言する。
「覚えてないんか?理乃、男の子に犬引き取ってもらったぁゆうて。ほんで、その男の子がネクタイ落としてったゆうて、持って帰ってきたんやで」
階下でお母さんが知慧のお風呂を終えたらしい音がしている。
それを聞いて、パパは慌てたようにベッドから立ち上がった。
部屋を出る前に、思い出したように付け足した。
「理乃な、そん時、本物の王子様がおったんやぁゆうてたで。ほんでお母さんはカンカンや。王子様なんかおらんゆうてな。
思えば、あん時からやわ。お母さんが理乃に厳しいなったんは」
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