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10回目の告白
「今日も洸くん来なかったね」
涼香が帰り際に話しかけてきた。
洸が学校に来なくなって、5日め。
今日はもう金曜日だ。
「本当に洸くんの連絡先いらないの?リノちゃんから連絡したら、返事返ってくるかもよ?」
涼香がスマホを手に言う。
私が洸と連絡先を交換してないと知ってから、ずっとこれだ。
親切で言ってくれているのは分かっているけど。
「ううん、大丈夫」
私はそれを断る。
洸の連絡先は、自力で手に入れたい。
それに。
「洸くん、私から連絡来たら嫌かもしれないし」
こないだはひどいことを言ってしまった。
「やだ卑屈。本当に何があったの?喧嘩した?」
涼香が、半分茶化して、半分真面目に訊きかえしてくる。
「喧嘩したっていうか、私が心狭くて……」
私がそう漏らすと、涼香は前のめりになって続きを促した。
仕方なく、言葉を続ける。
「私、洸くんにからかわれてるだけなのかなって疑っちゃって。いや、それと洸くんが学校休んでるのは、関係ないと思うけど」
喧嘩別れみたいになってしまったのが、ただただつらい。
お母さんが失礼なことを言ったのも、謝りたい。
「疑って、喧嘩みたいになっちゃったんだ?」
涼香がなぜか目を輝かせて言う。
「それって、リノちゃんも洸くんのこと好きってことだよね?」
あまりにも直球で訊かれたものだから、思わず頷いてしまった。
それを見て、涼香が大きく頷きかえしてくる。
「だったらなおさら洸くんと話しなって。ほら、これ洸くんの電話番号だからさ」
そう言って、スマホの画面を見せてくる。
【大原 洸】
表示されているその名前すら、恋しい。
会いたくて会いたくて、たまらない。
「チャットでもいいよ。それだったらーー」
「明日、」
涼香の優しさを遮る。
「明日、洸くんの家に行ってみる。会えるか分かんないけど」
私は勢いでそんなことを口走っていた。
「リノちゃん、洸くんの家知ってるんだ?」
涼香は驚いたようだった。
知っているはずがないと決めつけていたのかと思って、少しムカついた。
「涼香ちゃんだって知ってるんでしょ?」
前に洸と一緒に帰っていたし、洸の家に遊びに行ったことがあってもおかしくない。
連絡先も知ってるし、私はどうせ涼香には敵わない。
そう思って、ドロドロとした感情が胸を塞ぎだす。
けれど。
「知らないよ。誰も知らないんじゃない?洸くん、家とか住所は、絶対教えてくれなかったから」
涼香は、あっけらかんとそう答えた。
「……そうなんだ」
なんだか拍子抜けしてしまった。
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