10回目の告白

2/14
前へ
/99ページ
次へ
「なになに、本当に愛されちゃってるんじゃない。何で疑っちゃったのよ」  涼香がからかいモードに入っている。  そこには、1ミリもマウントや嫉妬を感じなくて。 「ごめん、私いま、ちょっとだけ涼香ちゃんに対抗心を燃やしてた」  そんな自分が恥ずかしい。 「対抗心って、私が洸くんの連絡先を知ってるから?」  涼香にきょとんとした顔で尋ねられて、頷くことさえできずに目を伏せる。 「それだけじゃなくて、洸くんは学校では絶対、私に話しかけてこないし……」  ゴニョゴニョと私はそう呟く。  私を守るためだと言われても、疑い出したら止められなくて。 「やだぁ。そんなこと気にしてたの?」  涼香が、スマホをリュックにしまいながら呆れた声を出す。 「あー、でもそっかぁ。喧嘩になったの、私のせいもある?だったら責任感じるなぁ」 「や、それは私の心が狭かっただけで……」 「不安にさせる方も悪いでしょ。洸くんの連絡先が知りたくなったら、いつでも教えるから言ってね」  そう言って、涼香はにっこりと笑った。  涼香は本当に優しい。 「駅まで一緒に行こ」  立ち上がった私に、そう声をかけてくる。  あれ、と思った。 「今日は渡邉先輩と帰らないの?」  このところ、2人はいい感じだ。 「何で私があんなアホな人と」 「渡邉先輩、いい人じゃん」 「やめてよ。あ、私に洸くんを取られたくなくて、無理やり先輩とくっつけようとしてる?」 「まさか。そんなつもりはないけど、涼香ちゃん、先輩といる時、すごい楽しそうだよ?」 「それは先輩のテンションに付き合ったげてるだけーー」 「涼香。あ、加瀬さんと帰る?」  ふいに男の声がした。  見ると、教室の入り口に渡邉先輩が立っていた。  いつのまにか涼香呼びになっている。  こないだまでは吉永さんと呼んでいたのに。 「いえ、私は図書室に寄ってから帰るので」  私は、渋る涼香を渡邉先輩に差し出した。  つくづくお似合いの2人だ。 「そういや大原、芸能事務所に行ってるらしいな」  渡邉先輩は、急にそんなことを言ってきた。 「「……はい?」」  訊きかえす声が、涼香とハモる。  洸が、芸能事務所? 「いや、さっき教室で女子が騒いでたんだけどさ。大原の姉ちゃんと繋がってる奴がいて。大原が学校休んでる理由訊いたら、そう返ってきたって」  渡邉先輩は、スラスラとそう説明した。  理解が追いつかない。 「先輩、たまには役に立ちますね」  涼香が辛口で褒める。  そして、私の方を振り向いた。 「リノちゃん、絶対洸くんに会いに行きな。怪我とか病気じゃなくて良かったけど、洸くん、高校辞める気かもよ。そしたらきっと後悔するよ」  真剣な顔で私にそう忠告してくる。  ……洸が、高校を辞める?  それは、洸に会えなくなるということだろうか。  涼香の言葉に、にわかに焦燥感がかきたてられる。 「もしかして俺、ファインプレイ?」  渡邉先輩がおどけている。 「はいはい。行きますよ」  涼香は、渡邉先輩の背中を押すようにして、一緒に帰っていった。  その恋人みたいな後ろ姿を見送りながら、私は洸に会いに行く決意を新たにした。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加