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「なになに、本当に愛されちゃってるんじゃない。何で疑っちゃったのよ」
涼香がからかいモードに入っている。
そこには、1ミリもマウントや嫉妬を感じなくて。
「ごめん、私いま、ちょっとだけ涼香ちゃんに対抗心を燃やしてた」
そんな自分が恥ずかしい。
「対抗心って、私が洸くんの連絡先を知ってるから?」
涼香にきょとんとした顔で尋ねられて、頷くことさえできずに目を伏せる。
「それだけじゃなくて、洸くんは学校では絶対、私に話しかけてこないし……」
ゴニョゴニョと私はそう呟く。
私を守るためだと言われても、疑い出したら止められなくて。
「やだぁ。そんなこと気にしてたの?」
涼香が、スマホをリュックにしまいながら呆れた声を出す。
「あー、でもそっかぁ。喧嘩になったの、私のせいもある?だったら責任感じるなぁ」
「や、それは私の心が狭かっただけで……」
「不安にさせる方も悪いでしょ。洸くんの連絡先が知りたくなったら、いつでも教えるから言ってね」
そう言って、涼香はにっこりと笑った。
涼香は本当に優しい。
「駅まで一緒に行こ」
立ち上がった私に、そう声をかけてくる。
あれ、と思った。
「今日は渡邉先輩と帰らないの?」
このところ、2人はいい感じだ。
「何で私があんなアホな人と」
「渡邉先輩、いい人じゃん」
「やめてよ。あ、私に洸くんを取られたくなくて、無理やり先輩とくっつけようとしてる?」
「まさか。そんなつもりはないけど、涼香ちゃん、先輩といる時、すごい楽しそうだよ?」
「それは先輩のテンションに付き合ったげてるだけーー」
「涼香。あ、加瀬さんと帰る?」
ふいに男の声がした。
見ると、教室の入り口に渡邉先輩が立っていた。
いつのまにか涼香呼びになっている。
こないだまでは吉永さんと呼んでいたのに。
「いえ、私は図書室に寄ってから帰るので」
私は、渋る涼香を渡邉先輩に差し出した。
つくづくお似合いの2人だ。
「そういや大原、芸能事務所に行ってるらしいな」
渡邉先輩は、急にそんなことを言ってきた。
「「……はい?」」
訊きかえす声が、涼香とハモる。
洸が、芸能事務所?
「いや、さっき教室で女子が騒いでたんだけどさ。大原の姉ちゃんと繋がってる奴がいて。大原が学校休んでる理由訊いたら、そう返ってきたって」
渡邉先輩は、スラスラとそう説明した。
理解が追いつかない。
「先輩、たまには役に立ちますね」
涼香が辛口で褒める。
そして、私の方を振り向いた。
「リノちゃん、絶対洸くんに会いに行きな。怪我とか病気じゃなくて良かったけど、洸くん、高校辞める気かもよ。そしたらきっと後悔するよ」
真剣な顔で私にそう忠告してくる。
……洸が、高校を辞める?
それは、洸に会えなくなるということだろうか。
涼香の言葉に、にわかに焦燥感がかきたてられる。
「もしかして俺、ファインプレイ?」
渡邉先輩がおどけている。
「はいはい。行きますよ」
涼香は、渡邉先輩の背中を押すようにして、一緒に帰っていった。
その恋人みたいな後ろ姿を見送りながら、私は洸に会いに行く決意を新たにした。
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