10回目の告白

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***  翌日の土曜日、私は10時すぎに洸の家の前に立っていた。  早すぎただろうか。  こんなところまで押しかけて引かれるだろうか。  そんな臆病風に吹かれながら、おっかなびっくりチャイムを鳴らす。  でも、1、2分待っても応答はなかった。  どうしよう。  しばらく家の前で待ってようか。  それも迷惑か。  でも、このままじゃ帰られへん。  そんなことをぐるぐると考えた挙句、私は、洸のお父さんが連れていってくれた喫茶店に入ることにした。  喫茶店は、洸の家から道路を隔てて斜め向かいにあって、窓際の席からは洸の家のドアが見える。  ストーカーをしているような後ろめたさを感じながら、窓際の席に陣取った。  ほどなくして、頼んだ紅茶が運ばれてくる。  勉強道具の類は何も持ってこなかった。  スマホは通信量の関係で自由に使えなくて、暇つぶしになるようなものは何もない。  何もせずにただじっと誰かを待つという経験を、私は今までにしたことがなかった。  洸は、いつも私を駅で待っていた。  約束もなく、私が来る確証もない時から、改札を抜けたところに、いつも立っていた。  洸も同じ気持ちだったのだろうか。  こんなにも心細くて、受け入れてもらえるか不安で。  それでも、どうしても会いたくて。    思い出すのは、初めて言葉を交わした日のことだ。  遠い昔のことのように思える。    電車の中だった。  知慧が生まれて寝不足だった私は、目の前に立った洸を見上げて、パパみたいだと言った。  洸の方は、ノノを亡くしたばかりで、悲しみを堪えていた。  それなのに、取り繕うように笑って、私の隣に座った。  会話中に寝てしまった私を、咎めることもなかった。  人と並んで歩くのに慣れていない私の手を握って、好きかもしれないと言った。  あの頃は、洸のことをチャラいだけの人だと思っていた。  まさか、自分にとってこんな大きな存在になるとは思っていなかった。  いつからだったのだろう。  洸が女子に囲まれているのを見ると、胸がチクチクするようになった。  改札の向こうにその姿を見つけると、ホッとするようになった。  私に合わせて歩く洸の歩幅に慣れて、洸の声が心地良くなった。  隠していた関西弁も、嫌いだった自分の目も、洸になら、さらけ出せるようになった。  帰っていく洸の背中を見て、もっと一緒にいたいと思うようになった。    それが好きという気持ちだと気づくのに時間がかかったのは、私が臆病で、自分に自信がなかったからだ。  洸の言葉が信じられなくて、傷つくことに怯えていた。  そんな私に、洸は惜しげもなく、好きと言ってくれた。  学校の成績が全てだと思い込んで、青風高校の生徒を自分ごと馬鹿にしていた私に、知らない世界を見せてくれた。  自分ひとりじゃ、きっと一生かかっても見つけられなかったものを、私の前にやすやすと示してくれた。    だから私は、洸に伝えるまでは帰れない。  この想いを。  感謝の気持ちを。  たとえ、洸の心が離れてしまっていたとしても。  最初から幻だったとしても。
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