10回目の告白

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***  喫茶店の客はどんどん入れ替わって、紅茶はすっかり冷たくなった。  壁にかかっている時計は、長針と短針が12の位置ですれ違ったあと、再び近づこうとしている。  いい加減帰ろうと思って、ハンドバッグを肩にかけて、中からお財布を取り出した時だった。 「あっ」  喫茶店の中で、思わず声をあげてしまった。  すぐ目の前を洸が通り過ぎたから。  私は気が動転していたのだろう。  何も考えずに、そのまま喫茶店を飛び出した。  横断歩道を渡ろうとしている洸は、白いTシャツに黒っぽいジャージズボンという格好で、手には買い物袋を提げている。 「洸くん」  そう呼びかけたけど、洸の耳には届かない。 「洸くん!」  喫茶店の前で、ありったけの声で叫んだ。  道ゆく人が、何事かという顔で私を見た。   「お嬢ちゃん、お会計は」  喫茶店から店員が出てきて、私に声をかけてくる。  そりゃあ無銭飲食を疑われても仕方がない。  私はハンドバッグを持ったまま店を飛び出したのだから。  けれど。  諦めきれずに再び洸の方に目を向ける。  ここを逃したら、二度と会えなくなりそうな気がして。  洸は、横断歩道を渡り切ったところで、こちらを向いて立っていた。  顔に驚きの表情が浮かんでいる。  横断歩道の信号が点滅しはじめた時、弾かれたようにこちらに駆け出してきた。  そして、あっという間に私の前までやってきた。 「すみません」  私の手を引いて、背後の店員に謝っている。 「僕はそこの住民の大原です。代金は必ず払いますので、少し待っていただけませんか」  見ただけで状況を理解したらしい。  ただ、謝っているにしては少し威圧的な口調だ。 「ったく。早くしてよ」  その店員は、私の肩から手をどかして、店内に戻っていった。  私はいつの間に肩を掴まれていたのだろう。  洸に気を取られていて、全然気づかなかった。 「おっさんが気安く触りやがって」  洸が私の肩をパッパッと払う。  ……あれ?  この1週間で随分と言葉がお悪くなられて。 「平気?」  心配そうに私の顔を覗き込んでくる。 「へ、平気だよ。私が悪いんだし、掴まれてたの全然気づいてなかった」  それよりも、洸に触れられたところが、ジンジンと熱い。 「んとに危なっかしいな」  洸が呟く。 「お金が足りなかったの?いくら?」  私がお財布を手にしているのを見て、尻ポケットを探っている。  この人は、ほんまに。 「ちゃうわ、アホ」  何で分からないのだろう。 「洸くんを待ってたんや」  それ以外に、私がここにいる理由なんてないのに。 「ええ?」  洸は、わざとかというくらい驚いた。  というか、引いたのかもしれない。  いたたまれなくなってきた。 「ごめんね、こんなところまで押しかけて。でも、洸くんの連絡先知らないから、こうするしかーー」  お財布に目を落として、ボソボソと弁解していると、私のお腹が急にぐうと鳴った。  結構大きな音だった。   「……聞こえた?」  恥ずかしくて、目を上げて恐る恐る尋ねる。  洸は横を向いて、口を押さえていた。  それは、笑っているというよりもーー。 「聞こえた」  そう答えた洸は、耳まで赤くなっている。 「理乃ちゃん、お昼まだなの?良かったらどこかに食べに行く?」  私と目を合わせないまま、洸はそう提案してきた。
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