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「え、うそ!洸くんじゃん!!」
そんな声が頭上で聞こえてきたのは、私たちがパスタを食べ終えた頃だった。
顔を上げると、私たちと同じくらいの年代の女子が3人立っていた。
ひとりが手に伝票を持っているから、食事を終えて会計に向かおうとしているところなのだろう。
「もしかして彼女?誰とも付き合う気ないって言ってたじゃん!」
裏切られたとでもいうように、女子が口々に言う。
「ああ、この子はいとこだよ」
洸はさらりと嘘をついた。
「昨日からうちに遊びに来てるんだ」
あまりにも自然なトーンで言うから、私まで騙されそうになった。
「なんだ、ビビったぁ。洸くん、来週の同窓会は来るよね?」
「うん、行けたら行くよ」
「それ絶対来ない時のやつじゃん。いつなら空いてるの?」
「ごめん、ちょっとバタバタしてて、予定が読めないんだ」
「えー、もしかしてうちら、煙たがられてる?泣くんだけど」
「違うよ。本当に忙しいだけで……」
「いとことレストランに来る時間はあるのに?」
「それは……」
女子3人に、洸が押されている。
なんか、ムカつく。
「キスしたら許してあげるっ」
女子のひとりがそう言ったから、さらに腹が立った。
どこの誰か知らないけど、こういう人たちのせいで、洸は自分のしたいことを言えなくなったのだと思った。
「キスはちょっと……」
洸が、さすがに断ろうとする。
「えー、中学ん時はしてくれたじゃん。え、やっぱ彼女できた?」
「そうじゃなくて……」
「じゃあいいじゃん。立って立って」
洸の手を取って、強引に立たせようとしている。
「や、やめてよ」
気づけば私は、洸の前に立ちはだかっていた。
「はあ?何?」
洸の手を掴んでいた女が、白けたように言う。
「あんた、ただのいとこなんでしょ?黙っててよ」
いとこであることを否定したら、洸が私を守ろうとしてくれたのが台無しになる。
それなら……。
「いとこだけど、洸くんが困ってるでしょ。おばちゃんに言いつけるから」
彼女たちに向かって、私はそう言い放った。
途端に心臓は早鐘を打ちはじめる。
信じてもらえなかったら死ぬ。
「ええ、なにこいつ」
「ブラコンなの?黙ってろよ」
女のひとりに、突き飛ばされそうになった。
でも、それより先に、洸が私の手を引いた。
「帰ってくれる?」
洸が低い声で言う。
一瞬、自分が言われたのかと思って心臓が冷えた。
「この子を攻撃するような人の顔は、二度と見たくない」
洸はそう言って、きっぱりと女子たちを跳ね除けた。
そんな洸の姿を、私は初めて見た。
女子たちは、ぶつぶつ言いながらも、洸の気迫におされて退散していった。
極度の緊張から解放されて、私は自分の席に崩れ落ちた。
「理乃ちゃん、嫌な思いさせてごめんね」
洸が、悲痛な声で謝ってくる。
洸が悪いわけではないから、私は茶化さざるをえない。
「まさか、いとこだったとは知らんかった」
「え、違うよ!?」
「分かってるわ!」
どうなってんねん、この男。
「あんた、中学でもキスしてたんか」
水を飲みながら、何気なくそう呟いた。
「うん。あ、でももうしないよ。理乃ちゃんと約束したし」
洸が真剣な目でそう宣言する。
約束したし、キリッ、ちゃうねん。
私がどういうつもりでそんなことを言ったのか、気にならないんか。
いや、違うな。
私がはっきりしないのが悪い。
「洸くん」
私は覚悟を決めた。
「こないだの公園に行かない?」
今度こそちゃんと、洸に好きだって伝えよう。
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