10回目の告白

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*** 「え、うそ!洸くんじゃん!!」  そんな声が頭上で聞こえてきたのは、私たちがパスタを食べ終えた頃だった。  顔を上げると、私たちと同じくらいの年代の女子が3人立っていた。  ひとりが手に伝票を持っているから、食事を終えて会計に向かおうとしているところなのだろう。 「もしかして彼女?誰とも付き合う気ないって言ってたじゃん!」  裏切られたとでもいうように、女子が口々に言う。 「ああ、この子はいとこだよ」  洸はさらりと嘘をついた。 「昨日からうちに遊びに来てるんだ」  あまりにも自然なトーンで言うから、私まで騙されそうになった。 「なんだ、ビビったぁ。洸くん、来週の同窓会は来るよね?」 「うん、行けたら行くよ」 「それ絶対来ない時のやつじゃん。いつなら空いてるの?」 「ごめん、ちょっとバタバタしてて、予定が読めないんだ」 「えー、もしかしてうちら、煙たがられてる?泣くんだけど」 「違うよ。本当に忙しいだけで……」 「いとことレストランに来る時間はあるのに?」 「それは……」  女子3人に、洸が押されている。  なんか、ムカつく。 「キスしたら許してあげるっ」  女子のひとりがそう言ったから、さらに腹が立った。  どこの誰か知らないけど、こういう人たちのせいで、洸は自分のしたいことを言えなくなったのだと思った。 「キスはちょっと……」  洸が、さすがに断ろうとする。 「えー、中学ん時はしてくれたじゃん。え、やっぱ彼女できた?」 「そうじゃなくて……」 「じゃあいいじゃん。立って立って」  洸の手を取って、強引に立たせようとしている。 「や、やめてよ」  気づけば私は、洸の前に立ちはだかっていた。 「はあ?何?」  洸の手を掴んでいた女が、白けたように言う。 「あんた、ただのいとこなんでしょ?黙っててよ」  いとこであることを否定したら、洸が私を守ろうとしてくれたのが台無しになる。  それなら……。 「いとこだけど、洸くんが困ってるでしょ。おばちゃんに言いつけるから」  彼女たちに向かって、私はそう言い放った。  途端に心臓は早鐘を打ちはじめる。  信じてもらえなかったら死ぬ。 「ええ、なにこいつ」 「ブラコンなの?黙ってろよ」  女のひとりに、突き飛ばされそうになった。  でも、それより先に、洸が私の手を引いた。 「帰ってくれる?」  洸が低い声で言う。  一瞬、自分が言われたのかと思って心臓が冷えた。 「この子を攻撃するような人の顔は、二度と見たくない」  洸はそう言って、きっぱりと女子たちを跳ね除けた。  そんな洸の姿を、私は初めて見た。  女子たちは、ぶつぶつ言いながらも、洸の気迫におされて退散していった。  極度の緊張から解放されて、私は自分の席に崩れ落ちた。 「理乃ちゃん、嫌な思いさせてごめんね」  洸が、悲痛な声で謝ってくる。  洸が悪いわけではないから、私は茶化さざるをえない。 「まさか、いとこだったとは知らんかった」 「え、違うよ!?」 「分かってるわ!」  どうなってんねん、この男。 「あんた、中学でもキスしてたんか」  水を飲みながら、何気なくそう呟いた。 「うん。あ、でももうしないよ。理乃ちゃんと約束したし」  洸が真剣な目でそう宣言する。  約束したし、キリッ、ちゃうねん。  私がどういうつもりでそんなことを言ったのか、気にならないんか。  いや、違うな。  私がはっきりしないのが悪い。 「洸くん」  私は覚悟を決めた。 「こないだの公園に行かない?」  今度こそちゃんと、洸に好きだって伝えよう。
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