10回目の告白

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*** 「理乃ちゃん」  洸が声を発したのは、永遠にも感じる時間の後だった。 「僕のことは気にしなくていいよ」 「……え?」  思っていた答えと違って、思わず訊きかえす。    洸は私の方を見ていた。  それは、胸が痛くなるくらい優しい表情だった。 「理乃ちゃんに会うまで、僕はずっと流されて生きてきたんだ。これからだって、流れに身を任せて生きていける。だから、そんな風に言ってくれなくて大丈夫だよ」  11月の冷たい風が、火照った頬を冷ましていく。    めげそうになるけれど、私は今までの洸からの告白を思い返した。  洸はいつだってまっすぐに想いを伝えてくれた。  私がどんなに適当にあしらっても。  1回好きだと言っただけで信じてもらおうなんて、そんな虫のいい話はない。 「洸くん、このネクタイ覚えてる?」  気持ちを奮い立たせて、私は洸に尋ねた。 「これね、ノノを引き取ってくれた時に、洸くんが落としてったの」  洸の方に差し出したネクタイが、ひらひらと風にたなびく。 「洸くんに会った時のこと、何となくだけど思い出した。ネクタイ、返しに来れなくてごめんね」    あの後、お母さんが厳しくなって、外に出ることすらままならなくなってしまったのだ。    洸が、ネクタイの端をそっと掴む。  その表情は無感情だけど、ネクタイを通して少しだけ、洸と心が通ったような気がした。   「ノノを大事に育ててくれてありがとう。私を見つけて、好きって言ってくれてありがとう。信じなくてごめん」  私は、ゆっくりと洸の方に身を乗り出す。 「私も、洸くんが信じてくれるまで、何度でも言うよ。洸くんのことが好き」    どうか、洸に届いてほしい。  祈るような気持ちで、洸の言葉を待った。  けれど。 「このネクタイはたぶん、父親からくすねたやつだ」  洸が温度のない声で言う。  どうやら話を逸らす気らしい。 「僕、学芸会の衣装の蝶ネクタイが、子供っぽくて気に入らなくて、父親のネクタイを持っていったんだ」  洸の手から、ネクタイの端がするりと落ちる。 「でも結局、子供がこんなの付けたらおかしいって付けさせてもらえなくて、仕方なく尻ポケットかどっかに入れてた。それを落としたんだと思う」  洸は淡々とそう説明した。  話を逸らされて、好きが宙ぶらりんのままだ。  困り果てて洸を見た私は、あれ、と思った。  顔が赤くなっていた。  私の言葉は、まったく届いていないわけではないのかもしれない。 「今の洸くんなら、このネクタイ似合うんじゃない?」  私はそう言って、ネクタイを洸の首にかけてみた。  ブルーグレーのジャケットに、その紺のネクタイはよく映える。 「ネクタイを落としてくなんて、洸くん、シンデレラみたいだね」 「な、何で……」  洸の首にネクタイを結ぶ私に、洸が戸惑いを口にする。 「何で、そんなに結び慣れてるの……?」 「練習したんだよ。洸くんにこうやって結んであげようと思って。その時は制服をイメージしてたんだけど」  私がそう答えると、洸はますます真っ赤になった。  結び目をキュッと上にあげて、完成した。  やっぱり、よく似合う。
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