10回目の告白

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***  空に朱色が混じり始めた頃、私たちは名残惜しい気持ちとともに立ち上がった。   「結局、芸能事務所はどうするの?」  私の家に向けて歩き出しながらそう尋ねると、洸は何かを思い出したように小さく声をあげた。 「一本電話してもいい?」  私にそう断って、スマホを耳に当てる。   「せっかく機会を頂きましたが、見送らせてください」  私の隣で、そんな感じのことを喋っている。  相手が引き止めてくるのを、洸が断っている様子が伝わってくる。  洸は、最後まで主張を押し通して、数分ほどの通話を終えた。 「今のは芸能事務所の人?」  私の問いに、洸が頷く。 「この1週間はお試し期間だったんだ。辞めるなら今日中に意思表示しなきゃいけなくて」 「ええ、危な」 「あはは」  洸は屈託なく笑った。 「でも、良かったの?お母さんたちに相談しなくて」 「うん。自分の人生は自分で決めるよ」  心配する私に洸はそう言って、にっこりした。 「良かった。洸くんがちゃんとやりたいこと主張できて」  私の言葉に、洸が「ん?」と訊きかえしてくる。 「洸くんのお父さんが心配してたんだ。洸くんが自分というものを主張しないって」  それを聞いて、洸は息だけで笑った。 「父さん、理乃ちゃんにそんなこと喋ったの?」  その顔はくすぐったそうだ。  でも、嫌そうではなかった。 「私にも、ちゃんと言ってね。洸くんがしたいこと、私にできることだったら、叶えてあげたい」  私がそう言ったら、洸はますますくすぐったそうにした。 「一緒にいてくれるだけで、じゅうぶんですよ」  なぜか丁寧語でそう返してくる。  その時、手と手が触れた。  手を繋ごうとした私に、洸は緊張した声で続けた。 「でも、その、い、嫌じゃなかったら……、」  ためらうような間の後で。 「腕を、組んでほしいかもしれないです」  何だ、そんなことか。  もっとすごい要求が来るんか思て身構えたやんか。 「あ、でも、知り合いに会うかもしれないからやっぱ無し。理乃ちゃんが嫌な目にーー」  ぐだぐだと撤回してこようとする。  ほんまにアホやなぁ。  その腕に抱きつくと、洸はビクッとした。  自分で言ったくせに。 「公園でキスしといて、何ゆうてんねん。だいたい、こんな隣町からうちまでいじめに来る人なんかおらんわ」  ここから私の家までは、5キロくらい離れている。  しかしこれ、ドキドキするな。  ほんまに私、前にもこんなことしたんやろか。 「だ、黙ってないで何か言ってや」  洸が何も言わないから、ますます恥ずかしくなる。  腕を組んでほしいと言ったのは洸なのに。 「胸がいっぱいで泣きそうです」  返ってきた答えに、思わず笑った。 「何でやねん」  後ろから照らす夕陽に、街がオレンジ色に輝いている。  前に伸びる影を踏みながら、私たちはゆっくりと歩いた。
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