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「僕も、理乃ちゃんに置いてかれないように、ちゃんと勉強しないとな」
恥ずかしさを持て余す私をよそに、洸はそう呟いた。
「何言ってんねん。ぜんぶ満点だった人が」
「全部じゃないよ。ひとつ間違えた」
「結局、それ以外は全部満点やったん?」
私が聞いた時は答案が6科目分しか返ってきていなかったから、残りの3科目分については知らなかった。
「うん。先生に高校辞めるかもって電話したら、英語以外ぜんぶ満点だったのに嘘だろって言ってた」
「そらそうやろ」
「あはは」
笑い事ちゃうわ。
本気で勉強の仕方を教えてほしい。
「それで、高校は続けるんよね?」
念のためにそう確認する。
「うん、続けるよ」
洸が肯定したから、安心した。
「僕、アイドルになってる場合じゃなかった。僕は理乃ちゃんを幸せにするために生まれてきたんだ」
そんなセリフを、恥ずかしげもなく言ってくる。
そういうところはアイドルっぽいけどな。
「そんなこと言って、女の子に囲まれたらヘラヘラして、抱きしめちゃったりするくせに」
私がそう呟くと、洸は急に立ち止まった。
腕を組んでいる私は、つられて立ち止まる。
「理乃ちゃんが嫌だったら、やめるよ?」
洸が真剣な顔で言ってくる。
何やそれ。
「やめれるん?ほんなら今までのは何やってん」
「僕が何をしようが理乃ちゃんは気にしないと思ってたから」
「気にしないわけないやろ」
この男はまったく。
ちゃんと言わな伝わらんのや。
「私、洸くんが他の女の子に可愛いって言ったり、抱きしめたり、キスしたりするの、ぜんぶ嫌。そういうの、私だけにしてほしい」
心が狭いと思われるだろうか。
洸の価値観は、私の言葉を受け入れてくれるだろうか。
そう不安になるけれど。
やっぱり嫌なものは嫌だ。
洸にとってそれが、理解不能だとしても。
「可愛い」
俯きがちになる私の頬に、洸が触れる。
私の顔を引き上げて、求めるような目で見つめてくる。
その瞳に、引き込まれそうで。
「い、いま言えって言ってるわけとちゃう」
私はムードをぶち壊そうとする。
だって、またキスされそうだし。
そうなったらもう、歩けなくなりそうだし。
「僕がいま言いたいから言ってる」
洸は、私の抵抗をものともせずに、甘い空気を作る。
「理乃ちゃん、好き。可愛い。好き。好き。めっちゃ好き。何も考えられなくなるくらい好きーー」
「言い過ぎや」
「全然言い足りない」
洸の顔が近づいてくる。
「こんなこと、絶対にもう、理乃ちゃんにしかしない。だからーー」
唇が触れ合った。
何度も角度を変えて口付けてくる。
触れるたびに、洸の好きが全身に流れ込んでくるみたいで。
こんなん、ほんまに身が持たん。
どれだけの時間が経ったのか、洸はやっと私を解放した。
「大好きだよ、理乃ちゃん」
そう囁く洸の胸に、紺色のネクタイが揺れている。
「帰ろっか」
脱力した私の手を取って、再びゆっくりと歩き出した。
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