26.あなただけが私を信じてくれたから

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26.あなただけが私を信じてくれたから

 あれからまた幾日か過ぎた。  今日がこの牢屋で過ごす最後の日なのだろうか。常時静かな監獄とは違って、いくつもの足音が聞こえてきて顔を上げる。すると不遜そうな王太子殿下と、彼に腕を絡ませている不敵に笑ったリーチェの姿が見えた。  リーチェは相変わらず場をわきまえず、派手なドレスと装飾品を身に付けている。それとも彼女にとっては、私の門出を祝う意味で、場にふさわしい装いをしているつもりなのか。 「お姉様、ごきげんいかがかしら。――あら。お疲れのご様子かしら? お可哀想」 「そうだな。お前ももう十分に苦しんだだろう」  十分に苦しんだ、か。確かにそうだ。ただし、きっと殿下が考える苦しみをはるかに超えたものに違いない。 「そろそろ慈悲を与えてやろうと思ってな。喜べ。楽にしてやろう」  慈悲? 楽?  ……ああ、処刑ということか。回帰を繰り返した結果、私にとって死は楽になるものではなく、より絶望を味わうものを意味することになった。それとも今度こそ本当に楽になるのだろうか。本当の意味での解放となってくれるのだろうか。もう後戻りできないほどの決断を下した今、今世でようやく私の人生を終わりにしてくれるのだろうか。 「ふん。相変わらず表情一つ変えないな。可愛げのないやつだ」  殿下は鼻を鳴らして私に何かを言った。  ぼんやりしていて聞き逃してしまったが、おそらく聞き漏らしても特に問題ないくらいの言葉に違いない。それよりも、王太子殿下に心身賭けて懇願したいとシメオン様にお願いしたのに、彼は約束を果たしてくれなかったようだ。もちろん最初から殿下に懇願するつもりなど毛頭なかったが。  一方で気がかりなのは、シメオン様があの夜、牢屋を出た後に見つかり、殿下に何らかの理由を付けられて拘束されていないかということだ。  どうか拘束されていませんように、ご無事でありますようにと心の中で祈っていると、続いてそのシメオン様が現れた。  彼は硬く冷たい金属格子の向こう側で、顔に怪我一つなく、汚れのない立派な騎士服で身を包み、毅然とした姿で立っている。  私は自然と唇から喜びがこぼれた。  ああ、シメオン様。  最後にまた会えた。こうして生きている姿でまた会えた。良かった。  あなただけが私を信じてくれたから。私を信じてくれた唯一の人だったから。暗闇の中の一筋の光だったから。  願わくは今世でこの悪夢を終わりにしてほしいけれど、あなたが生きる未来があるのならば、また何度暗闇の人生を繰り返すことになったとしても、私は心強く生きていけるでしょう。  もう思い残すことはない。  私はシメオン様に小さく小さく微笑んだ後、断罪を素直に受けるべく深く頭を垂れた。
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