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7.冷たい監獄にて
あの事件から三日経った。
監獄は体の芯まで凍えさせるような固く冷たい石畳に囲まれていて、全体的に薄暗い。ベッドが二、三台置けるぐらいの狭さの一方、天井までの空間は無駄に伸びていて、天頂高く配置された窓からもれ零れる光で朝か夜かの感覚を知る。これ以上長くいたら、日にちの感覚も失っていきそうだ。
この監獄にも階層があるらしい。貴人やたくさんのお金を出すことができる者は、人として尊厳を守られた生活を送れるのだと看守が言っていた。
面会に来た父は、この家名汚しがと怒鳴り、憤り、穢らわしそうに見下ろして罵るばかりで、私が無実であることを信じてくれるわけでもなく、気遣う言葉も皆無だったところを見ると、私のために権力やお金を使う気はなかったのだろう。
あるいは王族を暗殺しようとした重罪人として、これ以上の待遇を望めなかったのか。
その結果、私には最下層の監獄部屋を宛てがわれたようだ。ベッドの代わりに嫌な臭いがする藁が粗雑に積まれ、大きな桶が一つ置かれるばかり。
尋問はお茶会に参加した者全てにおいて、それぞれ等しく行われたと言う。私も妹も、第二王女のエレーヌ王女殿下ですらも。
その中で私が犯人だと決定されたのには、疑われるだけの理由があった。
今回のお茶会で茶器類に触ったのは、事前に用意した王宮侍女、また、私がお茶を淹れた後、配ってくれた侍女を除けば私だけ。ミラディア王女殿下から私にお茶を淹れてほしいとご要望を受けたからだ。
私が淹れるお茶は美味しいと喜んでくださって、これまでも何度か行っているし、私は今回も快く引き受けた。まさかこんなことが起こるとは夢にも思わなかったから。
そして何より動かぬ証拠は、私の鞄から出てきた毒入りの瓶だそうだ。もちろん使ったことも手にしたこともない。誰かがきっと私の鞄に忍ばせたのだろう。誰かが。
ならば動機は?
私は侯爵家の娘であり、ミラディア王女殿下の弟君である王太子殿下に嫁ぐ身だ。ミラディア王女殿下ご自身は、一年後に隣国の王太子殿下とのご結婚でこの国を発つご予定でもある。私には王女殿下を殺害する理由などない。
しかし動機もまたいくらでも後付けできるらしい。
「お前は姉上の婚約者、隣国の王太子に懸想していたそうじゃないか。だから姉上を妬んで殺そうとしたんだな!」
そう言って地に座り込む私を冷たい瞳で見下ろすのは、オースティン王太子殿下だ。
確かに密かに思いを寄せていた方はいる。けれどそれは隣国の王太子などではない。……バーナード卿だ。
「不敬にも私という婚約者がありながら、下劣な女だ。穢らわしくて反吐が出る!」
私が下劣な女なら、あなたは何だというのだろう。私という婚約者がありながら、陰で私の妹と逢瀬を重ね、将来的には私に雑務を押し付け、自身はリーチェと共に享楽にふけようとしていたあなたは。
「重罪人が私に何という目を向ける! 姉上は今も生死を彷徨っているんだぞ! 姉上の婚約者、オーガスト国の王太子も大層お怒りだ。楽に死なせないように言われている。極刑を覚悟しておけ!」
王太子殿下はそれだけ吐き捨てると、いつものように私に背を向けて去って行った。
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