11.お茶会の朝

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11.お茶会の朝

「――まっ。お嬢様! アリシアお嬢様! アリシアお嬢様! 起きてくださいな!」  揺らし起こす誰かの声で、私ははっと目を開けた。  すると私を心配そうに覗き込むその人物は我が家の侍女、マリーだった。 「え、あ。……マ、マリー?」 「ええ。そうでございますよ。お嬢様、どこかお体の調子でも悪いのですか? いつもお目覚めは早いのに」 「どう、いうこと?」 「どういうことって、今日は、ミラディア王女殿下ご主催のお茶会の日でございましょう? 起きてご準備しませんと」 「え――えっ!?」  私はがばりと起き上がると自分の首に手を当てた。  ……繋がっている。片やマリーと言えば、いきなり起き上がった私にびっくりしているようだった。 「わたくし、生きている、の?」 「え? 何でしょうか?」  そんな馬鹿な。確かに私は断頭台に上がり、そして処刑された。  両親の軽蔑するような目も、殿下とリーチェの歪んだ笑顔も、容赦なく憎しみをぶつけてくる民衆の言動も、断頭台の息苦しい首枷の感覚も、何かを叫んで必死に手を伸ばすシメオン様の姿もしっかりと覚えている。覚えているのに。 「夢……だったの?」  しかし確かに今、私がいる所は、何の苦楽もない慈愛に満ちた世界でもなければ、業火で身を焼かれ続ける世界でもなく、使い慣れた自分のベッドの上だ。 「何ですか? 悪い夢でも見たのですか? でもそろそろ動いていただかないと。リーチェお嬢様は随分と楽しみにされていたみたいで、もうお起きになっていらっしゃいますよ。いつもは遅いのに」 「リーチェ? リーチェもお茶会に参加するの!? エレーヌ王女殿下を含めた四人の!?」  マリーはまた私の勢いに怯みながら頷いた。 「え、ええ。そう伺っております。本日はアリシアお嬢様がお茶をお淹れになるのですよね」 「……ええ、そう。そうね。そうだったわ」  先ほどの光景が夢でも、この現実が不可思議な回帰でもいい。私が見た光景がこれから先に起こるとしても、今、私はまだ生きているのだから。 「起きるわ」 「では準備いたしますね」 「ええ。お願い」 「はい。かしこまりました」  マリーが私に背を向けた瞬間、私は足を踏み外してベッドから落ちたふりをした。 「いたっ!」  右手首を押さえて痛がるふりをする私に、マリーが慌てて振り返る。  夢か回帰か知らないが、私がお茶を淹れたことでミラディア王女殿下の殺害容疑をかけられ、最終的に処刑された。ならば同じような状況が起こるかもしれない今日という日に対して、少しでも何とか対策を立てなければ。――私がお茶を淹れなければ、容疑者から外されるはず。 「アリシアお嬢様! どうなさったのですか!?」 「ベッドから落ちた時に手首を痛めたみたい」 「た、大変! すぐにお医者様を呼んでまいります!」 「いいえ。大げさにしないで。包帯を巻いてくれたら、それで大丈夫よ」  お医者様に見せたら、怪我をしていないことが分かってしまう。 「そ、そうですか? では包帯を持ってまいります」  マリーは部屋を飛び出して行った。  既にご招待を受けているので、私たちは王宮へと向かうことになった。 「えっ!? お姉様、今日はお茶をご用意できないの!?」  リーチェは、包帯が巻かれた私の手首に目をやると大げさに驚く。 「ええ。ミラディア王女殿下には謝罪するわ」 「そう、そうなの」  リーチェがぶつぶつと呟き、忌々しそうに爪を噛みながら思いにふけっている隙に、私はさりげなさを装って鞄の中身を確認した。  毒の瓶は入っていない。やはり単なる夢だったのだろうか。単なる夢ならいい。夢なら……。  私もまた思いにふけっていると、王宮に到着したことが告げられた。
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