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12.悪夢のお茶会がまた始まる
私はミラディア王女殿下に会うなり、謝罪から始めた。
「申し訳ございません。今朝、足を滑らせて倒れる際に手首を痛めてしまいました。お茶をお淹れする約束をしておりましたが、本日は控えさせていただければ幸いに存じます」
「まあ! 手首を? それは大変ね。大丈夫なの? お茶のことなんて気にしなくていいのよ。お大事にしてね」
ミラディア王女殿下は快い返事を下さるどころか、労いの言葉さえかけてくださった。
「とても残念ですわ。アリシア嬢は、お茶を淹れるのが本当にお上手だとお姉様からお聞きしていましたもの」
「誠に申し訳ございません、エレーヌ王女殿下」
「エレーヌ。アリシアが淹れてくれるお茶は、次回の楽しみに取っておきましょう」
少し拗ねたようなエレーヌ王女殿下にも謝罪していると、ミラディア王女殿下はとりなすようにそう言ってくださった。
やはりミラディア王女殿下はお優しい。こんな方が誰かに害されていいわけがない。今日、本当に事件が起こるのか分からないが、しっかり見張っていよう。
「では今日は侍女に淹れてもらいましょう。ダリア、お願いね」
「はい。かしこまりました」
ミラディア王女殿下が指示を出した侍女さんは、夢の中(?)で私が淹れたお茶を運んでくれた方だ。
彼女からは毒物を持っている形跡は発見されなかったと言うが、私は席に誘導されてからも、彼女を注意深く観察することにした。
しかし特におかしな行動もない。私の時と同様にミラディア王女殿下の護衛騎士も側にいるし、毒物検査もきちんと行われているようだ。
「――シア。アリシア!」
何度か名を呼ばれていたらしい。何回目かのミラディア王女殿下の呼びかけにようやく気がついた私は、慌てて振り返った。
「失礼いたしました」
「ふふっ。やっぱりお茶の淹れ方が気になるもの?」
「はい。本日はわたくしが淹れる予定でしたから」
「ええ、ええ。目つきが厳しい指導官のそれだったわよ」
ミラディア王女殿下はくすくすと笑う。
「お戯れを」
ミラディア王女殿下の楽しそうな様子に相好を崩した時、お茶が運ばれてきた。
大丈夫だ。不審な点は何もなかった。大丈夫。このまま何事もなく、和やかにお茶会は進行されるはずだ。大丈夫。あれは夢。単なる夢だったのだ。何も起こらない。起こるわけがない。
祈るような気持ちでミラディア王女殿下を見ながら、自身もカップを持ち上げようとしたその時。――ミラディア王女殿下が目を見開き、震える手で喉を押さえた。
「きゃああああっ!?」
誰が叫んだのだろう。
私ではない。私ではない誰かだ。だって私は、自分だけ時間が止まったかのように茫然とその光景を見つめてしまったからだ。
甲高い声が上がり、辺りが騒然となったところでようやく我に返る。
「そんな。そんな。そんな! ミラディア王女殿下!」
「あ、あ、あ……」
ミラディア王女殿下は目を見開いたまま声にならない声を上げ、ぐらりとその体を崩れさせた。
私は慌てて立ち上がると腕を伸ばしてミラディア王女殿下を支える。しかし勢いづいた体は支えきれず、一緒に地へと崩れた。
「ミ、ミラディア王女殿下! 誰か! 誰か! お医者様を! 早くお医者様をお呼びください!」
その声を合図に侍女や騎士たちが駆け寄り、エレーヌ王女殿下が続いて叫んだ。
「お、お姉様! お姉様! しっかりしてください! 誰か! 誰かお姉様を助けてっ!」
そして今。
私は尋問を受けたのち――また監獄の中にいる。
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