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最初の時は、毒入りの瓶は私の鞄に入っていたとのことだったが、今回は侍女が隠し持っていたことになっている。他にも状況が変わっているのだろうか。ミラディア王女殿下のご容態は良くなっていないだろうか。
「あの。ミラディア王女殿下のご容態はいかがでしょうか?」
「症状からでは毒の特定ができず、まずは毒の解明からの治療となり、初期対応が遅れた結果、意識の回復が遅れているご様子です」
「っ……」
変わっていてほしいことは変わらない。せめて毒の解明がもっと早ければ良かったのに。
私は唇を噛んだが、前回と異なる話の内容にふと気付いた。
「頭は? 転倒した際に頭は打たれていないのですか?」
「ええ。幸い頭は打たれておりません」
力及ばずで支えきれず、王女殿下と共に地には崩れたが、私が支えた分、王女殿下は頭を打たずに済んだようだ。良い方向に変わっていることもある。希望を捨てては駄目だ。
「毒は何だったのでしょうか?」
「アザジンです。中毒症状としては軽度の痺れから始まり、頭痛、腹痛、知覚麻痺に呼吸困難。全身の麻痺から呼吸停止、最悪死に至ります」
ミラディア王女殿下がそんな大変な状況でいらっしゃるとは。今も苦しんでいらっしゃるのだろうか。
口を押さえる手が震えたが、シメオン様は私の肩にそっと手を置いた。
「まだ意識は戻られておりませんが、命の危機は脱したとのことです。呼吸も落ち着いていらっしゃるそうです」
「そうですか。良かった……」
私は気を取り直して話を進める。
「毒はやはりミラディア王女殿下のカップのみに入っていたのですか?」
「……ええ。そうです」
「わたくしは侍女さんがお茶を淹れる姿をずっと見ておりましたが、確かに彼女以外、誰も茶器を触りませんでした。ですが、毒を入れるような素振りもありませんでした」
お茶の準備は私の時と同じく、別に用意されたテーブルにて皆の前で行い、彼女の側にはミラディア王女殿下の護衛騎士が付いていた。
「ええ。護衛騎士もそう言っていました。また、銀のスプーンで確認するところを見たとも。アザジンも銀に反応する毒物の一つです。そこで変化しなかったということは、その瞬間には入っていなかったことになります」
「そうですね。後はお茶を運んでくれた時しかありませんが、その時も不審な動きはありませんでした」
第一、お茶を配る際は皆、注目していたわけで、そんなところで毒を盛る大胆な行動は取れないだろう。では一体、どこで毒を入れたというのか。私もそうだが、彼女も毒を入れる機会なんてなかった。いや、誰にも毒を入れられる瞬間がなかったはずなのに。
私が見落としていた瞬間があった? 私は前回と行動を変えたが、結局は投獄され、ミラディア王女殿下もまた危篤に陥っている。ならば変わらないものが他にも絶対あるはず。
変わらないもの。変わらないもの。変わらない……もの? あ――大変だ!
私は血の気が引いた顔を上げた。
「アリシアさ――」
「シメオン様! 今すぐここを出て身を隠してください!」
「え?」
「リーチェが! 妹が間もなくここに来るのです!」
あの子の性格なら、今回も絶対ここに来る。牢屋に入っている私を嘲笑しにやって来るはずだ。
「なぜそのよう――」
「早く! 早くお願いいたします!」
「分かりました。また後で来ます」
シメオン様は私の剣幕に押されて頷き、牢屋を出ると鍵を締めて足早に去って行く。それと同時に、前回と変わらぬリーチェの不平不満が聞こえてきた。
ぎりぎり間に合ったようだ。
「嫌だわ。酷い臭い。薄暗いし、埃っぽくて気持ち悪いわ。とてもじゃないけれど、人がいるような場所じゃないわね」
言葉を追うようにして現れたのは、やはりリーチェだった。彼女は前回と同じく場に似合わぬ華やかなドレス姿で現れた。
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