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14.少しはスッとした
「お姉様、ごきげんいかがかしら。――聞くまでもなかったわね。お元気そう。それにしてもお姉様ったら、酷い格好ね。お可哀想」
彼女は残念そうに肩をすくめると、口元の笑みを隠すように口の前で手を重ねた。
「でもお怪我はないようね?」
「ええ」
「そっ」
リーチェは相変わらずつまらなそうな表情だ。彼女は自分の髪を人差し指でくるくると巻く。
「あなたは大丈夫だったの」
私は同じ問いかけをする。
「もちろんよ! だって私は何も悪いことはしていないもの! 捕まる理由がないわ」
「わたくしだって何もしていないわ」
「あら、だってお姉様は、ミラディア王女殿下の婚約者に懸想していらしたのでしょう? ミラディア王女殿下のことを憎らしく思っていらっしゃったんでしょう? それで毒殺しようと考えたのよね? 毒の瓶を持っていた侍女がお姉様に脅されて毒を入れたって、白状したらしいわよ」
「いいえ。違うわ。わたくしはそんなことは言っていない」
前回は途中で激高してしまい、看守に殴られてしまった。今日は落ち着いて少しでもリーチェから情報を引き出さなければ。
「皆で彼女がお茶を淹れるところを見ていたでしょう。彼女が犯人とは思えない。それこそ彼女は誰かに脅されたのでは? 例えばそうね。あの騒ぎに乗じて、毒の瓶を自分の服に仕込まれてしまったせいでね」
「そんっ」
「ああ、そうだわ! きっと毒の瓶を忍ばせた人間が毒を入れた真犯人なのよ」
私は手を叩きながらリーチェの言葉を遮り、考える余地を与えないように立て続けに話す。
「脅されて嘘の証言をした彼女に情状酌量の余地はあっても、直接手を下した人間は極刑を免れないわね。王族殺しだもの。普通の処刑ではないわ。きっと断頭台に立たされてさらし者にされることでしょう。そう言えば、あの時、あなたは……何をしていた?」
「な、何を言っているのよ!? 本人が毒を入れたと言っているのだから、彼女が直接手を下したに決まっているじゃない!」
「いいえ。彼女にはそんな機会はなかったはずよ。彼女が毒を入れたと言うのならば、どの瞬間で彼女に入れさせたの?」
「そっ、そんなの、私だって知らないわ!」
「え?」
私だって知らない? では誰なら知っている? ……王太子殿下?
リーチェははっと顔を強張らせる。
「何でもないわ」
しくじった。もっとうまく誘導すべきだった。もうこれ以上の情報を引き出せないだろう。
「ねえ」
リーチェは強がるかのように低く小さな声にする。
「どうでもいいから、早く自分が殺害を企てましたって、白状してよ。私たち家族もすごく迷惑しているの。お姉様が素直に白状すれば、家門まで罪に問わないように国王陛下にかけ合うと王太子殿下は言ってくださっているのよ」
「それで? わたくしを排除した後、あなたが王太子妃の座を狙うつもり? あなたたちの仲ならとっくの昔に知っていたわ」
するとリーチェはそこで初めて目を瞠った。しかし直後、すぐに軽快に笑い出す。
「何だ、知っていたの。ざーんねんっ! 刑が執行される直前に教えて、さらに絶望するお姉様の顔が見たかったのにぃ!」
「残念ね。絶望するのはあなたのほうよ。仮にわたくしが消えたとしても、あなたは絶対に王太子妃にはなれない。わたくしの座っていた椅子に、他の聡明なご令嬢が座るだけよ。あなたはしょせん日陰の女。太陽の光を浴びて輝ける人間ではない。あなたは王太子妃の、ひいては王妃の器ではないわ。身をわきまえなさい!」
「――なっ!? 言わせておけば!」
リーチェは怒りで顔を赤らめて、鉄格子から手を伸ばして私の髪を勢いよく引っ張る。
「痛い! 誰か! 誰か来てっ! 誰か!」
私の叫び声で二人の看守が駆け足でやって来た。
前回と同様の看守たちだ。今回、彼らは私に構わず、リーチェを引き離そうと必死になっている。
「放しなさいよ! 放しなさいよ! この女が、この女が私を! 無礼者!
私は王妃になる人間よ! 放しなさい! 放せ、放せーっ!」
「――いでえええぇっ!」
私から引き離されたリーチェは、前回私を袋叩きにした看守の腕に思い切り噛みついた。
私はほんの少しだけ溜飲が下がった。
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