26.あなただけが私を信じてくれたから

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「ブルシュタイン王国の第一王女、ミラディア・アン・カルロッテ・クリーヴランドが命じます。――今すぐ捕縛しなさい」  今、捕縛と言った? 私は既に牢屋に入っているのに。  私は目を閉じて沙汰を待っていたが、奇妙な言葉に思わず顔を上げてしまった。 「承知いたしました。ブルシュタイン第一王女ミラディア・アン・カルロッテ・クリーヴランド王女殿下の命の下に――オースティン・リュカ・クリーヴランド王太子殿下、並びにリーチェ・トラヴィス侯爵令嬢を拘束させていただきます」  シメオン様がそう宣言すると、王太子殿下とリーチェはあまりの驚きに肩を跳ねさせながら叫んだ。 「――な!? 何だと!?」 「え、わ、私!?」  私も目の前で何が起こっているのか理解できず、茫然と見守る。しかし私たちの驚きをよそに、シメオン様は王太子殿下を容赦なく捕縛し、もう一人の名も知らぬ騎士がリーチェを捕縛した。 「捕縛完了いたしました」 「ご苦労様。では二人をその辺の適当な牢屋にでも放り込んじゃって」 「承知いたしました」  シメオン様は軽い口調のミラディア王女殿下の言葉を粛々と受け止めたが、王太子殿下はそうはいかない。 「姉上! 一体どういうことですか!」 「残念だけどそういうことなのでしょう? 自分が一番分かっているはずよ」 「あ、姉上は何か勘違いなさっています! ご説明したらきっと分かっていただけるはずです!」 「ええ、ええ。もちろんよ。そのご説明とやらを、これからじーっくり聞かせてもらおうじゃない」  ミラディア王女殿下は腕を組み、顎を上げた。 「誤解です! あの女がカップを交換したことは覚えておられるでしょう!?」 「あの女などと、よくも婚約者に向かって言える言葉だこと。まあ、もう婚約解消は必至だけれどね。――ええ、アリシアは確かにカップを交換したわね。覚えているわ。だけれど、わたくしは一口もお茶を飲んでいないこともしっかりと覚えているのよ」 「あ、姉上は毒を飲んで混乱され――」  はあ、とミラディア王女殿下は大きなため息をつく。 「ここまで言わなきゃ、分からないかしら。お茶に毒が入っていなかったことを示す証拠品も取り戻されたし、盗んだ人間もあなたに指示されたと自白している。エレーヌが細工していたところを目撃した人物も保護しているし、あの子の部屋から毒入りの瓶も回収済みよ。あの子も捕縛されて今回のことを全て自供したらしいわ」 「なっ……」 「アリシアを蔑ろにするだけでは飽き足らず、よくもここまで彼女を貶めてくれたわね。絶対に許さないわよ! お父様が少しでも恩赦を与えようとしたら、わたくしが直々にあなたの首を刈り獲りに行くから覚悟なさい! ――さあ、もういいでしょう。わたくしがオースティンをぶん殴る前に連れて行って」  うるさそうに手で払う仕草を見せるミラディア王女殿下に、シメオン様が承知いたしましたと頭を下げる。すると。 「ま、待ってください、待って! 私は、私は何もしていません!」  これまで黙っていたリーチェが身じろぎしながら叫んだ。 「大人しくしろ!」 「――痛いっ!」  ミラディア王女殿下は拘束を強められた彼女に視線を流すと、片手を立てて騎士を制止させる。リーチェにもまた申し開きの時間をお与えになるらしい。 「どういうことかしら?」 「だ、だって! エレーヌ王女殿下が私のことを何と言ったか知りませんけど、ミラディア王女殿下はお茶を飲まれていないし、そのお茶にも毒が入っていなかったということは、エレーヌ王女殿下がお菓子か何かにでも毒を入れたということですよね!?」 「そうね」  リーチェは同意を頂いて勢いづいたのか、少し笑みをこぼすと続ける。 「私はミラディア王女殿下のお菓子には一切手を触れていません! どうして関係のない私まで捕まえられるんですか!? 悪いのは、毒を入れたエレーヌ王女殿下と、アリシアお姉様を犯人にするために証拠隠滅しようとした王太子殿下だけでしょう!? 確かに殿下とは恋仲で、殿下が私のためにしてくれたことなんでしょうけど、私は今回のことは何も知りません! たまたまお茶の席でご一緒していたからって、私まで捕まえるだなんてあまりにも不当です! 私は事件とは無関係ですっ!」  騎士に後ろ手を取られていても、リーチェは大きく胸を前に突き出して主張した。
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