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私は、ふわふわと、ゆっくりゆっくり降下してゆくホウキに乗っていた。
穏やかな気持ちに包まれ、一体私たちは今まで何をこんなに大騒ぎしていたのだろうという至極当然の疑問に首を傾げている。
始まりは、巨大蜘蛛だった。
そして私たちは逃げるため、ホウキに乗ったり、巨大ロボットに乗ったりした。
誰だよたかが蜘蛛から逃げるためにそんなトンチキなことをしたヤツは……私たちだよ……。
というわけで、この街で起こった危機の一番の原因は私たちになりそうだが、まあ、それを言ってしまえば他の人も同じことだ。
誰だよたかが魔女と巨大ロボを追いかけるために……と続いてゆき、結局最後は「花田桜ちゃん全部どうにかしてくれてありがとうございます。」ということになる。
なんておかしな街なんだ……
などということを考えていると、むこうから巨大ロボ、ならぬ普通のトラックの運転席からお兄さんが手招きしているのが見えた。あちらもふわふわ空中に浮いていて、ゆっくりゆっくり地上へ降下を始めている。いつの間にか巨大ロボは空も飛んでいたらしい。知らなかった。
とりあえず私は招かれるままにホウキの向きをそちらへ向け、ゆっくりゆっくりトラックへ近づいた。「入っていいですよ。この中、冷房効かせてありますから。」と言われたので、お言葉に甘えて「お邪魔します。」と中へ入る。
全力ホウキ疾走を続けて火照った体には、クーラーの効いた車内は涼しくてとても心地がよかった。
「大変なことになっちゃいましたね。」
「ええ。本当に。」
私たちは静かに笑い合った。配達のお兄さんは元々ずっとニコニコしていた人だったので、笑顔が堂に入っていて、とても綺麗な笑い方に見えた。
「まさか蜘蛛一匹から、あんなことになるなんて。」
「そうですよね。もう、これからは何だって動じずに乗り越えられそうです。」
そう。
もう、何が来たって怖くない。
あの恐ろしい巨大蜘蛛でさえ、いつの間にやら『まさか蜘蛛一匹から、あんな』程度の表現でおさまるようになってしまったくらいには、大変な事態を私たちは乗り越えたのだから。
「本当に……」
私たちは、一緒に空を見上げる。
金色の光の残り火がキラキラ光っていて、とても綺麗な夏晴れの空だった。
「……もう、何も怖くない。」
パニックの後の、静かな優しさ。
私たちは心穏やかに空を眺め続ける。
とん、と。
トラックが地上に降り立った後も。ずっと。私たちはクーラーの効いた車の中で、涼しげな群青に晴れ上がった空を、見上げている。
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