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「に、逃げろー!」
私はホウキを操ってくるりと方向転換。早々に逃げの体勢に入る。
しかし。
「逃がすな!貴重な我らの研究材料だ!」
「ファンタジー小説の題材にぴったりですわ!インタビューをせねば!助手さん!なんとかして捕獲してください!」
「あいあいさ〜。」
「俺の野次馬魂が燃えるぜ!よくわかんないが、とりあえず追いかけてみっぞー!」
「ワンワン!」
「ニャーニャー!」
「カーアカーア。」
来るわ来るわ。
後から後から、わんさか得体のしれないものが追いかけてくる。
そしてその種類は増えるばかり。
ツノを頭から生やしている頭がおかしい科学者やら、スーパーゴージャスなドレスを着た小説家やら、その助手(ちなみにそいつは気合いと根性で魔法の杖を具現化させて変身し、カウボーイみたいな投げ縄を何もないところからビィーンと出して私を捕まえようとしてくるとんでもない人だ)やら、よくわからない野次馬(あまりにも速く走りすぎて地面と摩擦が起こり、靴が燃えている。それを見て悲鳴を上げた八百屋のおねえさんが、手元にあったうちわでその靴を煽ぎ、その勢いで宙から氷水を噴出させて見事消火活動に成功していた。)やら、犬やら猫やら鴉やら。
私を追いかけているだけでこれなのだから、配達お兄さんのほうはどうなっていることやら……と大変心配になるが、彼を助けにいく余裕はない。残念ながら。
ホウキを飛ばしてビュンビュン逃げ回っていると、次第に街が混沌とし始めたのがわかってくる。
ツノ頭の科学者が裏で成し遂げた悪行の数々に憤り、一刀のもとに成敗せんと意気込む侍やら、小説家の幼馴染兼ライバルでミイラのコスプレをした漫画家やら、その助手兼夫兼コックさんな男の人やら、靴を燃やす野次馬にいつか靴を売った靴屋さんやら、八百屋のおねえさんを天狗と勘違いした自称天狗研究家の少年やら、とりあえず街中の危機をなんとかしようと出動した消防車や救急車やパトカーや武士団や魔法事故処理軍隊や亀さんや仙人や木こりたちがぐっちゃぐっちゃに入り混じり、とにかく大変なことになっている。
もうしっちゃかめっちゃかだ。
私を追っかけてきているのはすでに小説家の助手(投げ縄が死角からビュンビュン飛んでくるのでけっこう怖い)だけであり、他の人たちはむくむく湧いてきた黒雲やドシャーンピカッと降ってきた雷に足止めされてあえなく私を見失った。逆になぜ小説家の助手はまだついてきてるんだ、怖い。
……となったところで、ついに小説家の助手が脱落した。
巨大雪だるまが降臨したのだ!
どんな凶暴な生き物であっても雪崩には勝てない。その道理が通り、大質量の雪の塊に押し流されるように小説家の助手は退場した。めでたしめでたし!
そして私は荒れ狂う空をホウキで縦横無尽に駆け回る。
巨大雪だるまは、戦車が搭載した巨大水鉄砲にて撃沈。粉雪を粉チーズのように四方八方へ噴出しながら崩壊した。よって、街中の天気は雪になった。
ゴウゴウと荒れる街中の混沌。
雪と風と雷と雨と雹と虹と飴と風邪と豹とありとあらゆるものが降りしきる空。
こんなのどうやって収集つけるんだよ!と叫びたいくらいなのだが、大体の場合「もうどうにもならん!」と思ったことは案外あっさりと解決してしまったりするのだ。そのセオリーにきちんと乗っかり、このとんでもないパニック現象も、存外あっけない終わりを迎えることとなる。
天使が現れたのだ。
いや、正確に言うと、少し違うのだが。
天使の正体は、花びら幼稚園さくら組に所属する花田桜ちゃん四歳。お迎えに来たお母さんがドラゴンの尻尾を生やしてガウガウ唸っていたことから、この街で起こっている大変な危機を察知。その身に宿った聖なる祈りの力で、街全体を穏やかな金色の光で包み込んだのだ。
金色の光は、地上を覆い尽くした。
金色の光は、空を覆い尽くした。
金色の光は、ちょっと宇宙にはみ出していた部分の危ないモノたちも覆い尽くした。
そして、全て解決した。
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