べた、べた、べた。

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 ***  その彼女が、よ。  夏休み明けに部室に来た時、明らかに様子がおかしかったの。  いつも明るくてハツラツとしていたのに、やたら周囲をキョロキョロと見回してるのよね。  部室は小さなプレハブ小屋みたいな部屋だったんだけど、部屋に二つあった窓――そのカーテンを必ず閉めてしまうようになったの。昼間なのに、よ?部屋が暗いなぁ、と思って私達がカーテンを開けようとすると必ずこう叫ぶわけ。 「開けないでえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」    殆ど、金切り声に近い声。  なんで?と尋ねると彼女はこう教えてくれたわ。 「おばあちゃんちで、い、田舎の小さい村、夏休みに帰って、そ、それで、ついてきちゃうから駄目って言われたのに、わ、わたし、どうしても気になってる覗いちゃって」 「覗いた?何を?」 「わからないのおおおおおおおお!覚えてない、覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてないっ!何を覗いたのかも何を見たのかも覚えてないのにわかるの、窓から覗くの、それが完全に来ちゃったら終わりなのっ!!」  彼女は、明らかに怯えていた。それでも、“家にいるよりマシ”という理由で学校に来ることにしていたみたい。  そして、漫研にも顔を出していた。漫画を完成させなきゃ、迷惑かけ無いようにしなきゃって気持ちがまだ彼女にはあったんでしょうね。  でも。 「ちょ、ちょっと!」  彼女が勝手に暗幕を買ってきて部室の窓にぶら下げて閉じるようになった頃。彼女が描く漫画もおかしくなっていたの。  ペン入れまでは何も変じゃなかったんたけど、ただ。 「なんでそこ、ベタしちゃうの!?せっかくのコマが台無しじゃないの!!」  私はぎょっとしてしまった。彼女が、せっかく書いたキャラやセリフのあるコマを、黒でどんどん塗りつぶしていくようになってしまったから。  塗りつぶすコマは決まっていた。斜めの線がなくて、横長の長方形の形のコマ。そのコマばかり、真っ黒にインクで塗りつぶしていっちゃうのよ。せっかく細かな背景とか、可愛いキャラとか描いてあるっていうのに。 「隠さなきゃいけないんです」  黒、黒、黒、黒。  黒、黒、黒、黒。  黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加