べた、べた、べた。

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「全部黒く塗り潰して、でないと」  私の問いに、それでも彼女は手を止めずに告げたのだった。 「だってもう、紙の上にも、来てる……!」  ベタ塗りされていたのはすべて、横長の長方形のコマ。  “窓”の形に見える、コマだったの。 ――一体、なんだっていうのよ。  印刷所の納期も迫っていたし、私たちはやむなく彼女の漫画を部誌に載せた。正直黒塗りだらけで、話としてろくに成り立ってないものになってしまっていたけれど。  私は心底がっかりしたわ。普通に完成していたら、きっと素晴らしい漫画にはっていたはずなのにって。  同時に、彼女が何を見ていたのか気になって仕方なかったの。だから文化祭のあと、彼女が学校を休むようになってしまってから――部室でこっそり、彼女の原稿をチェックしてみたのよね。あ、ちなみにそこの印刷所、送ったアナログ原稿は印刷後にちゃんと返送してくれるところだったのよ。返してくれないところも世の中にはあるのかもしれないけど。  印刷された部誌に、おかしなところは何もなかった。ベタされたコマはただ真っ黒に塗りつぶされてるだけ。でも、生原稿にはまだ、塗りつぶされる前にあったものの痕跡が残ってるんじゃないかと思ったのよね。  特に彼女は筆圧が高くて、鉛筆の下書きがくっきり残ってしまうタイプだったから余計に。 「ん?」  で、私は気付いたの。  彼女の原稿の黒いコマをね、裏側から透かしてみると妙なものが見えるってことに。  キャラクターの絵でも、セリフの文字でもない。明らかに何か別の、よくわからないモノ。黒い黒いコマの中に微かに透けて見えるそれは、その正体は。 「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいい!?」  何を、見たのかって?  うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、それ、貴女に説明する必要、ある?  だって、私の家の窓、見たんでしょ?黒いカーテンの下、窓に貼られた黒い紙まで、貴女剥がして見ちゃったんでしょ?その向こうからナニが覗いてイルのか見テ、それガなにかヲ理解しチャッたんでしょ?  ならもう、わかるわよね。  私はうっすら透けてるのを見ただけだった。それでも、二十年で完全に追いつかれてしまったの。  ああ、マカちゃんがどうなったかって?さあ?言ったでショ、彼女、学校に来ナクなっちゃったッテ。  だから何もわからないけど、これだけは確か。  直接見た貴女は、確実に、私より早く追いつかれるわ。  まあ気休めに、窓を黒くしてみてはどうかしら。私みたいにね。うふふふふふふふふふふヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。
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