娘の初恋

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「藤城くんが?」  彼が娘に会いたがっている事実を、ありのまま話した。  会うか、会わないかを、二人に委ねることにした。 「化粧したら肌の色、隠せるかな? あ、でも化粧禁止か! どうしよう!」  娘は久しぶりに鏡を見て、慌て出した。 「聞いてくるね」  その姿に、また泣きたくなる衝動を抑えながら病室を出て行く。  すると、面会時間だけならと、特別に化粧の許可が下りた。  それに歓喜した娘は、鏡を見つめながらウィッグをして化粧をする。  次はパジャマをどうやって隠そうかと、カーデガンを選び出す。  好きな人を考えながらオシャレをする姿は、どこにでもいる十八歳の女の子で。見ているだけで微笑ましい姿なのに、胸が締め付けられるぐらいに苦しくて。  笑った顔が華が舞うように可愛らしく、恋する娘は輝いていて、その姿が美して、そして儚かった。  そんな思いを一人抱え、私は待ってくれている彼の元に行く。  共同スペースで待ってくれている彼もやたらソワソワしていて、若かりしき頃の夫を彷彿させてくる。  その姿に、より揺れる。  二人を会わせて、本当に良いのだろうか?  しかし気持ちとは反して、会ってあげて欲しいと告げる自分が居て。  それを聞いた彼は「ありがとうございます」と言い、病室に向かっていく。  その足取りは、逸る気持ちが抑えられていないのを感じ取れるぐらい、慌しかった。  娘は彼が好き。  彼も娘が好き。  しかしそれは、成就させてはいけない恋で。  本当に二人を会わせて良かったのか、この先も分からなくて。  どの結末に行き着いても、二人が傷付く未来が待ち受けているから、余計に切なくて。  窓の外より降り続ける雪を眺めながら、私は願う。  もう、病気を治して欲しいとも、髪を伸ばして欲しいとも思わない。願いは、ただ一つ。  神様。娘の寿命を延ばしてください。  あの二人が一日でも長く、共に時間を過ごせるように。
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