娘の初恋

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 季節が巡る中であの子の髪は伸びたが、当然ながら僅かな長さであの頃に戻れるはずなく。行動範囲は病棟のみだった。  このままどこに行くでも、誰と話すでもなく、天寿を全うするしかないのか。  そんなのって。  気付けば、娘のスマホのメッセージアプリを勝手に起動させ、「藤城くん」という名前を探していた。  その男の子はすぐに見つかりやり取りを見ると、娘の長文に対して、彼は「分かった」「別に」「知るか」など、そっけない。  側から見ると、娘の一方的な想いを軽くあしらっているように見えるが、最後のやり取りは。  娘からの電話一回に対し、彼からは三回かかってきている。  しかし娘は、その電話には応対していない。  日にちは、抗がん剤治療を受ける二日前。  髪を剃る前日だった。  あの日の涙は、そうゆうことだったのか。  病気によって散った、恋の花。  私は、衝動的に操作しようとして指を止める。  彼の名前があったのは、ブロックリストの中だった。  つまり娘は、彼との連絡を自ら絶っている。  もう会わない。その覚悟を感じ取った。  だけど削除まではしていなくて、それはどうしても出来なかったのだろうと思うと、余計に切なくて。  そうだね。  彼にだって、彼の人生がある。  それなのに「余命僅かな娘に会って欲しい。娘はあなたに好意を持っている」。  そんなこと望めるはずもない。  これ以上、娘の領域に踏み込んではいけない。  踏み躙ってはいけない。娘の想いを。 「ごめんね。もう見ないから」  私はスマホを閉じて、眠っている娘の元にそっと戻した。
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