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そんな、一年後のクリスマス。
外泊許可は出ていたが娘は変わらず拒否し、普通に過ごそうと病室に行くが娘は居なかった。
共同スペースかと見に行くと、そこには床に座り込んでいる娘の姿。
倒れたのかと思い駆け寄ると、男性に支えられていた。
慌てて看護師さんを呼び車椅子に座らせてもらうと、娘は泣いて彼を見つめている。
彼もまた娘を見つめていて、その姿はまるで。
娘が看護師さんに連れられ病室に戻って行く中、呆然と彼を見つめていると頭を下げてきて。自分が娘の前に突然現れたから、驚いて転けてしまったのだと謝ってきた。
マスクを付けているからはっきりは見えないが、娘と同世代ぐらいの男の子。
名残惜しそうに互いを見つめる、あの視線。
この人が誰かなんて、分かり切っていた。
「藤城くんですか?」
「え? はい」
彼は、メッセージアプリでのやり取りではそっけなかったが。礼儀正しく、穏やかで、優しい人だった。
一年前の夏に、娘から突然高校を辞めると電話で別れを告げられ、理由を聞こうと折り返したが電話に出てもらえなかった。
ずっと心配していたら、娘の友達が話しているのを聞いてしまった。
娘の母親、つまり私が。この病院に出入りしているかもしれないと。
それを聞いて娘に会いたい一心で、気付けば病院に来てしまっていた。
それが彼の話だった。
彼は来てくれた。ここが、緩和治療専門病院だと知った上で。
そう。もう積極的な治療は止めて、緩和ケアに切り替えていた。
だからこそ、娘に残された時間は一刻、一刻と迫っていて。
気付けば私は、全てを話していた。
親として、断らないといけない。
二人を会わせてはいけない。
未来ある彼を苦しめてはいけない。分かっていたのに。
娘に会って欲しい。支えて欲しい。愛してあげて欲しい。
そんなこと、願ってはならないのに。
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